日本では学生アスリートに“机”を捨てさせ、その世界での「勝った」「負けた」だけを追求しがちだ。しかし、池田氏は「重要なのは、アスリートであった学生が社会に出て、この100歳時代をどう生き抜くのか。それを考える脳みそを鍛える教育環境です。人生設計やキャリアの考え方の根幹を学ばせる機会が、いかに大学時代に整備されているかが重要だと私は思います」と強調する。

 学生時代、スポーツの世界だけに視線を向けていたら、社会との接点はどうしても限られる。プロの選手となって、勝負の世界に没頭すれば尚更のこと。遠征先や日々の付き合いなどで接点が身近にあった飲食店経営に目が向くのは、自然な流れかもしれない。日本では高校を卒業して直接プロに行くことも多いが、米国では大学を経てからプロに行くことが奨励されている。教育機関の最終点である大学において、学生アスリートに対する教育環境の整備を重視する考え方は妥当といえるだろう。

選手人生を終えた後の受け皿がない

 ベイスターズの球団社長時代、池田氏は新入団選手に対し、お金の使い方や税金の仕組み、SNSの利用法など社会の基本的な知識、ルールについて自ら講義して伝えていたと球団関係者から聞いたことがある。

「契約金で外国製の超高級車を買った。契約金をお祝いで派手に使ってしまった。そんな野球界の話は、よく見聞きします。プロの世界すら『しつけ』という、ある種プロの世界には似つかわしくないと思える言葉を使う人がいるほどです。突然プロの世界に入ってきて、それまで競技力の向上だけに打ち込んできた選手には、3年連続で活躍するまで高級輸入車はリスクが高すぎる買い物だとか、そういったことを言葉にして教え、気付かせる必要があるのです。

 私は、ある選手がプロの世界での成功が難しいと分かれば、早めに退団させて、年齢が若いうち、セカンドキャリアの選択肢が多いうちに社会へ戻してあげるべきだという信念も持っていました」

 大学スポーツの統括組織としてスポーツ庁が立ち上げるUNIVASの設立準備委員会で主査を務め、UNIVASの立ち上げに向けて尽力してきた池田氏はプロ野球の球団社長として、そんな現状を目の当たりにしてきたからこそ「学生アスリートの教育、スポーツと学業の両立はUNIVASの大きなテーマ」と実感を込めて訴える。