「ベイスターズの社長をやっていたときも、球団経営が劇的に変わっていくのを見て『一度、外の世界を見てみたくなった』と話す元選手の職員がいました。野球界の中でもビジネス、スポーツビジネスが意識されてきているのは確かです。それでも、まだまだ選択肢は限られています。スポーツで結果を出せず突然クビになって、社会とのつながりがなくなったかのような孤立感、孤独感を覚えながらセカンドキャリアをスタートさせることになってしまうことが多いのも現実です。

 困難に耐えられるメンタルや、厳しい練習をやり抜く力など、スポーツを通して高いスペックの“ハード”を心や脳みそにつくることはできますが、それを最大限に生かし切る“ソフト”や“OS”は、様々な教育に接する環境の中で各人が学習し、身につけなくてはならない。机に向かって勉強する、困ったときに本を読む、文章を書く、しっかりと言葉で表現するなど、人生における学びの基礎が、なかなか身についていないプロアスリートも多い。学生時代にこういった基礎を一度身につけておくだけでも、社会に出たとき大いに役立ちます。

『スポーツを一生懸命やりました』。それは素晴らしいことです。ただ、それが同時に学業の足かせになってはいけないし、教育環境がもっと整っていないといけません」

 もちろん、引退後に焼き肉店を経営することが悪いわけではない。重要なのは、多くの選択肢、広い視野でしっかりとセカンドキャリアを考えられることであり、その選択肢や広い視野を育む教育の環境が構築されていることだ。さらに、そういった意識を持ち、経験をしてきた指導者が出てくれば高校、中学と裾野も広がっていく。

 それは、各大学の大きな問題であり、統括組織から考えていかなければいけない問題でもある。大学スポーツの価値向上、収益化を目指すUNIVASだが、大学スポーツはあくまで「大学」のスポーツであり、プレーするのは「学生」であることを忘れてはいけない。「Athlete Student(アスリート学生)」ではなく「Student Athlete(学生アスリート)」を育成し、大学スポーツを通じて社会で活躍できる人材を輩出していこうとする確かなビジョンが、そこに求められる。

(志田 健)

引退した元プロ野球選手が人生に苦しむ理由【2020.12/8著者からの申し出により公開停止by細川】

(本記事はVICTORYの提供記事です)