岩渕 だからこそ、佐宗さんの「知覚の力」を磨いていくことができるというお話は、説得力があるんだと思いますよ。

佐宗 ありがとうございます。僕は、情報をインプットするときの知覚力を高めるうえで、美術作品のようなアートに触れるといいと思っています。僕らにはスマホがありますから、活字ばかりに触れていたかつての世代よりも、知覚を刺激しやすい環境は与えられていると思います。でもそれ以上に効果的なのは、美術館に足を運んで、いろんな作品に触れてみることなのではないかなと。知覚に及ぼす影響力という点では、アートに勝るものはないのではないでしょうか。そんな岩渕さんに聞いてみたいんですが、美術館でアートを鑑賞する際にどんなふうに鑑賞することをお勧めしていますか?

岩渕 僕は、美術館では、全部の作品をじっくり見ることはしません。そんなに集中力が続かないということもありますが、気になった絵を細部までじっと見ていくのです。よい絵は「こんなところにこんな表現が!」とどんどん新しい細部に気がついていって、それによって全体のイメージも変わり、不思議と「全部を見切った」ということにならないんです。

佐宗 今後、アートを鑑賞する人がもっと増えていくなかで、文脈を理解して鑑賞するということを素人がやろうとすると、美術館の中ですら「うんちく」を追い求めてしまう、いわゆる「論理モード」の見方をしてしまうと思います。鑑賞するときは、「知覚モード」でただ感じる、そして興味を持ったらそのあとに文脈を追うという鑑賞の仕方がいいんでしょうね。僕は最近、時間が許すときには、気になった絵を少し模写スケッチしてみたりしています。そうすると、その作品が持っている細部の表現力のすごさはもちろん、その芸術家が築いた「山」のすごさが実感できるんですよね。

(次回に続く 7/9公開)

【佐宗邦威さん対談シリーズ】

入山章栄さん(早稲田大学ビジネススクール教授)
直感力とは「違和感に対する正直さ」である ほか

尾原和啓さん(IT批評家)
なぜ世界はいま、ビジネス版「こんまりメソッド」を待望するのか ほか

岡田武史さん(FC今治オーナー/元サッカー日本代表監督)
現実を動かすのはいつも、平気で“無茶”を言える「妄想家」だ ほか

東浦亮典さん(東急電鉄執行役員)
「社外」に妄想を投げ、「社内」をひっくり返す ほか