店員に土下座を強要する、同僚に暴言を吐く、SNSに悪評を書き込む。そんなモンスタークレーマーが急増している。理不尽な要求を突き付けられ、精神的に参ってしまう人も少なくない。人手不足に悩む企業にとって、モンスタークレーマーは生産性を低下させる元凶だ。しつこいクレームを断ち切り、モンスターを撃退するための実践的技術を伝授しよう。

急増するモンスタークレーマー

「おたくで買ったタイヤチェーンのサイズが合わなくて装着できない。いまからすぐにスキー場まで代替品を持ってこい!」

 理不尽な要求だと分かってはいても、客のあまりのけんまくに屈し、カー用品店の店員はスキー場までチェーンを届けた。するととんでもない言葉が飛び出す。「チェーンが届くまでの時間が無駄になった。その時間料を払え」──。

 いま世の中には、このようなモンスター化したクレーマーが急増している。

 繊維、化学、流通、サービスなどの生活関連産業に従事する労働者によって組織されている労働組合、UAゼンセンが、2017~2018年に8万人余りの組合員を対象に行った「悪質クレーム対策アンケート調査」によると、実に7割強の組合員が「客からの迷惑行為に遭遇したことがある」と答えている。

悪質なクレームで精神疾患になる人もいる

 モンスタークレーマーによる迷惑行為の中身を見ると、最も多いのは冒頭の事例のような「暴言」や「威嚇・脅迫」で、「何回も同じクレーム」「説教」も相当数に上っている。

 モンスタークレーマーによる迷惑行為は、現場で働く人たちに大きな影響を及ぼしている。同調査によると、「精神疾患になったことがある」と答えた人が1%、約600人もいる。「強いストレスを感じた」と答えた人は54%に上り、「軽いストレスを感じた」も合わせると、全体の約9割がクレーマーの迷惑行為によって精神的なダメージを被っているのである。

日本の労働生産性はOECD平均よりも低い

 モンスター社員がもたらす影響も看過できない。

 モンスター社員が1人いるだけで月100万円の損失になるとの試算もある。モンスター化した客や社員への対処は、企業にとって死活問題なのだ。

 さらに言えば、モンスタークレーマーは、日本の労働生産性の足かせとなっている可能性がある。

 図は、OECD(経済協力開発機構)加盟国の時間当たりの労働生産性を比較したものだ。日本の生産性は36ヵ国中20位にとどまっており、OECD平均を下回っている。

 日本の生産性が低水準にとどまっているのはサービス業の生産性が低いからだ。

 それは日本のサービス業が、「お客様は神様」「安いのはいいこと」という二つの価値観を信奉するあまり、価格に見合わない過剰なサービスを提供し続けてきたことに起因している。

 過剰サービスの副作用としてクレーマーが急増し、その存在が企業をさらなるサービス競争に駆り立て、生産性の低下を招く。

 この悪循環から抜け出すために、いまこそクレーマーを完全に撃退するすべを身に付けよう。

急増するグレーゾーンの苦情

 さまざまな社会的背景によってクレーマーが増えている。中でも、急増しているグレーゾーンのクレーマーは、対応を間違えると大きな問題に発展しかねず、担当者は戦々恐々としている。

「昔は悪質なクレーマーへの対策だけやっておけばよかった。でも今は相手が普通の人なので、どう対処したらいいのか分からない」

 ある小売企業のクレーム担当者はそう悩みを打ち明ける。

 クレーマーは大きく三つに分類できる。正当な要求や苦情を訴えるホワイトゾーンの人、詐取や恐喝まがいの手口で金品をかすめ取るブラックゾーンのプロの人、その中間に位置するグレーゾーンの人だ。

 今、グレーゾーンのクレーマーが急増している。そのほとんどはごく普通の人なのだが、正当な要求を訴えるホワイトゾーンの人とは違って、たまっている鬱憤を晴らしたりするために理不尽な要求を繰り返すのが特徴だ。中には要求がエスカレートして、あわよくば金品をせしめようとする人もいる。

「普段ストレスをためている人が何らかのきっかけで爆発すると、厄介なグレーゾーンのクレーマーになる」

 企業のクレーム対応をサポートするエンゴシステム代表取締役の援川聡氏はそう分析する。

(週刊ダイヤモンド2019年2月16日号「クレーマー撃退法」を基に再編集)