私たちはグーテンベルクの銀河系に住んでいる

 印刷技術は中世技術と現代技術との間にくっきりとした区分線を引きました。印刷による写本技術は映画と似ているところがあり、「読者を映写機の視座」に置きます。

 印刷された文字を次から次へと「著者の精神の速度にあわせて追って」いきます。さらに、活版印刷本は「史上初の大量生産物」であり、最初の「反復可能な〈商品〉」でもあります。

 「人間の身体の直接的な技術的延長としての印刷によって、それが発明されてしばらくというもの、ひとびとは以前にはけっして手に入れることができなかったような力と興奮とを手に入れたのであった」(同書)。この「身体の技術的延長」という概念もマクルーハン思想の重要なポイントです。

 また、本が持ち運びできるようになったことは、個人主義の確立に大いに貢献することとなります。今までは羊皮紙の巻物に書かれていた文字を手軽に持ち歩けるという革命です。「活字人間のあたらしい時間感覚は映画的、連鎖的、絵画的である」という見出しの項目では、経験の瞬間が氷結させられていく状態が説明されます。

 これは活版印刷技術に特有の経験であり、感覚がバラバラに専門分化していくのです。マクルーハンによると、人々は「夢遊病に陥った」とされます。

 「だが印刷にも良いところがあるのでは?」という読者に対して、マクルーハンはこう答えます。

 「この本の主題は印刷が良いか悪いかの問題にあるのではない。印刷であれ何であれ、ひとつの力がもつ効果に対する無意識状態は悲惨な結果を招きがちだ、ということである。とくにわれわれが自分で作った人工の力の場合にはそうだ」(同書)

 さらに、「グーテンベルクの銀河系」は、1905年のアインシュタインの相対性理論による曲がった空間の発見とともに解体したとされます。固定された視点主義は終わり、そしてまた、新たなるメディアの再編成へとつながっているとされました。

人生で役に立つこと
活版印刷技術により、私たちは「グーテンベルクの銀河系」に住むようになった。内的宇宙は広がり続け、新たな科学によって、今後のメディアはどのような方向にむかっていくのだろうか。