「他者批判」が組織をダメにする

――そのとおりですよね。ところで、麹町中学校の改革は、非常に大きな変化なので、ついていけないと感じる関係者もいたのではないでしょうか。どのように改革を実現してきたのでしょう?

工藤 最初から僕が、「こういう学校にしよう」という絵を描いて、それに近づけるためにやってきたわけではありません。よりよい学校にしたいと思って関係者と対話を繰り返した結果、今があるという感じです。

 改革をするときに第一に必要なのは、現実を否定しないことです。僕は、本当は、ペーパー・テストのない世の中になって、受験システムも欧米に近づいていけばいいと思っています。でも、現実にはまだ入試制度はある。その入試制度に適応しなければ、生徒たちは不利益を被ってしまう。その現実を否定して改革をしようとすれば、多くの反発にあって必ず破綻することになるでしょう。

 だから、「定期テスト廃止」「宿題廃止」といった改革も、あくまでも現行の入試制度に適応することを前提にしています。この前提を揺るがせにしないからこそ、みなさんの理解と協力を得られたのだと思います。現実を否定せずに、「こういうことをしたい」という目的に合致する方法を模索すれば、ものごとは進んでいくのです。

――なるほど。

工藤 それともうひとつやったことは、すごく簡単なことです。関係者一人ひとりに「当事者意識」をもってもらうように促したのです。

 組織が変わらない理由は多くの場合、民間企業の言葉で言えばステークホルダー、すなわち関係する人たちすべてが、人のせいにして不満だけ言っているからです。

 学校なら、教員は「生徒が悪い」「家庭教育が悪い」と言いますし、親や生徒は「先生が悪い」と言う。教員同士も「あの教員の指導が悪い」などと、みんな批判ばかりしています。要するに、全員に「当事者意識」が欠けているのです。これまでどこに行っても、そういう現場を山ほど見てきました。

――それも耳が痛いですね。他者批判をしている分には、自分が変わる必要がありませんからね。

 そう、私たち一人ひとりが変わらなければ、組織は変わらない。だけど、「自分を変える」のは苦しいことですから、誰もが避けようとしてしまう。その結果、誰かを責めるばかりで、「当事者意識」が育たないわけです。

 それを経営者(校長)として変えていくには、2つのことを心がければいいと僕は考えています。

 ひとつは、創意工夫する権限をみんなに与えるということです。それぞれの人を当事者に変えていくためには、権限と責任の両方を与えればいい。権限を与えるから自由にやってみてくれ、と。ただ、注意が必要です。なぜなら、単に権限と責任を与えただけでは、だいたい失敗するからです。

――そうですか……。

工藤 それが現実ですね。なぜ失敗するかというと、個々人に権限を与えると、だいたいが、自分の経験則とか成功体験をベースに何かを決めようとするからです。学校の場合であれば、学級通信を毎日毎日書く教員がいたり、部活を徹底的に厳しくやる教員がいたり、実にさまざまです。みんな、それぞれの成功体験をもとに、バラバラな動きを始めるわけです。

 そうすると今度は、自分の成績を上げるために周りを蹴落とそうという動きが出てくることがあります。会社の営業なら、自分の成績を上げることだけを考えて周りを助けようとしないとか、そういうことって起こり得ますよね? 会社全体の営業成績を上げるという「本来の目的」と真逆の行動が生まれるわけです。これは、その人に問題があるというよりも、個人に権限と責任を与えると、そのような構造になりがちだということに、経営者が無頓着であることに問題あるのです。

――たしかに、組織内で不健全な競争が起こるのは、ありがちなことです。

工藤 学校でも同じことが起こり得ます。たとえば、「勉強時間を増やせば学力が上がる」という理由で、数学も英語も社会も理科も、と各教員が宿題をがんがん出すようになることがありえます。そうなると、生徒はたいへんです。宿題に追われてあっぷあっぷする状況に陥るわけです。

 そのうち、子どもたちは、すべての宿題をこなすことができなくなります。すると、どうなるか? 最も厳しくて高圧的な教員の宿題だけ、仕方なくやろうとするかもしれません。その時点で、宿題の目的が、学力を上げるためではなく、「先生に怒られたくない」ことになってしまうわけです。

 その高圧的な教員は、「僕が教えている子どもたちの成績は上がりました」と言うかもしれませんが、その分ほかの教科の成績は下がるかもしれません。何より、言われたことだけをこなす子ども、ひいては、言われなければ何もできない子どもを育ててしまっていることになり、「自分の頭で考える子」を育てるという、本来の教育の目的と真逆の教育効果が生まれてしまう。

 このように、権限と責任の両方を与え、そのやり方も完全に個人に任せてしまうと、本来の目的と離れて逆効果になっていく恐れがあります。これを防ぐためには、トップが、関係者みんなが納得できる「上位目標」を定める必要があるのです。(つづく)

工藤勇一(くどう・ゆういち)
千代田区立麹町中学校長。1960年、山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長等を経て、2014年から千代田区立麹町中学校長。教育再生実行委員、経済産業省「未来の教室」とEd Tech研究委員等、公職を歴任。公立中学でありながら先進的な教育をとり入れ、今最も注目される教育者。著書に『学校の「当たり前」をやめた。〜生徒も教師も変わる!公立名門中学校長の改革』(時事通信社)。