「対話力」はリーダーシップそのもの
――最後の質問になりますが、麹町中学校で生徒の主体性を尊重する教育に触れた子どもたちが社会に出た時に、社会の現実とのギャップに戸惑うこともあるのではないですか?
工藤 そうですね。たしかに、麹町中学校では頭髪も服装も自由で、稀にピアスをしている子もいます。それが問題だという概念がありませんから。ですから、締め付けのある環境に進学した卒業生が、「弱ったなぁ」と言ってくることはあります。
でも、うちの生徒たちの多くは、「心はひとつにならない」「対立があって当たり前」「考え方の違う人がいる」のが普通の世の中だと習っていますから、へっちゃらです。「自分が思うように人が動いてくれない、協力してくれないのは普通だし、この世の中にはいろんな考え方があるから、そういうもんだよ。それを幸せと思うか不幸と思うかは君次第だよ」と教えていますから、深刻に悩んだりしませんね。
――たしかに、妙な理想論を刷り込むより、世の中の現実を教えておくほうが、たくましく育ってくれそうですね。
工藤 そうですよね。そして、対立が生じたときにこそ、うちの生徒たちの本領が発揮されます。対話力を身につけていますから、ぶつかりあっている人たちの意見を引き出しつつ、目標に照らし合わせて対話を深められるようにファシリテーションができる子が多いからです。
そういうことができる人のことこそ、僕はリーダーシップがあるのだと思います。そして、麹町中学校での経験を踏まえて、「リーダーは孤独なもの」「思うようにはいかないから、リーダーはイライラするもの」「リーダーは、自分をコントロールする存在」ということを言語化できていますから、多少のことがあってもブレずにやり遂げます。「自律 尊重 創造」という基本ができていれば、どんな環境でも大丈夫だと思うのです。(おわり)
千代田区立麹町中学校長。1960年、山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長等を経て、2014年から千代田区立麹町中学校長。教育再生実行委員、経済産業省「未来の教室」とEd Tech研究委員等、公職を歴任。公立中学でありながら先進的な教育をとり入れ、今最も注目される教育者。著書に『学校の「当たり前」をやめた。〜生徒も教師も変わる!公立名門中学校長の改革』(時事通信社)。