清水建設 井上和幸社長Photo by Masato Kato

大手ゼネコンの中でも特に建築事業が強い清水建設は5月、新中期経営計画(2019~23年度)で不動産開発事業に5000億円を投じる計画と、30年度までの長期経営計画で海外売上高を5倍(18年度比)に成長させる目標を掲げた。積極的投資を仕掛ける事情とは? 技術と営業を経験してきた井上和幸社長に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 松野友美)

かつて失敗し、いろいろ勉強した
不動産開発の投資限度額を上げる

──長期ビジョンで不動産開発を重視しています。

 私どもは、「不動産屋」になろうとしているわけじゃなくて、不動産ビジネスができる建設会社なんです。われわれは、ハードをつくる技術は持っている。それと営業的なものをベースにして、不動産ビジネスを展開していきます。

 かつて失敗し、いろいろ勉強しました。バブル期には、いろいろな不動産を、海外も含めて買いました。新しいことをやろうとして、大きな失敗をしてしまった(ダイヤモンド編集部注:清水建設は英豪米の不動産開発関連の子会社清算のため1993年3月期、94年3月期で合計1700億円以上の特別損失を計上している)。うちだけではないかもしれないけど、そういう時代と今とでは、いろいろ勉強をしたので基本的に考え方が違う。

 不動産大手のような資金力はないし、じれったいところがあるかもしれないけれど、案件はまずリスクをきちっと押さえる。その上で技術とか、最先端の付加価値のある建物を提供することを評価してもらえるか、そういう立地か、また相手かを、よく見極めてやるのが基本姿勢です。

――投資計画に「不動産開発事業5000億円」を盛り込みました。現在も横浜みなとみらい21地区におけるオフィスと商業施設が入るビル「横浜グランゲート」の開発や、埼玉県新座市での物流施設開発、シンガポールでのオフィスビル開発など国内外で複数のプロジェクトが動いています。

(5000億円)ありきではないですが、そういう規模でやっていきたいし、いろいろ仕込んでいます。あとはタイミングを見て、投資開発事業の投資限度枠(投融資残高)である1500億円を段階的に引き上げていかないと、足りなくなっちゃいます。国内だけではなくて、海外にもね。ASEAN(東南アジア諸国連合)、北米、この辺にも広げていきたい。

――ノルマ達成のために無理して案件を獲得することになりませんか。

 額、量と併せて利益率が大事。それを第1番目に置いて活動してもらう。そういう企業文化にしなきゃいけないし、それはみんな、うちの若い人はもう分かっています。量も利益も達成すれば賞賛に値しますけど、どっちかっていったら利益ですよ。

――海外での不動産開発のリスク管理について、東京本社での一括管理というわけではなく、支店の判断を重視する営業体制を取っているそうですが、具体的にはどのような仕組み?

 投資開発本部が本社にあるので、そこが全世界の投資案件に関して、責任を負ってはいます。ただ管理する地域が広過ぎちゃって、本当の意味でのリスクを把握し切れない危惧もある。

 なので、エリアをASEAN、北米などにちゃんと分けて、最終的な責任は投資開発本部が負うけれど、そこに上がってくるまでのジャッジは、エリアごとにやってもらうようにしていきたい。そうすると判断とか動きがもっと速くなってくるはずです。

――北米で売り上げを伸ばしていくのも、不動産開発で?

 不動産開発ですね。ある程度築年数がたった物件を買って、それをリノベーションして付加価値を上げて、再度テナントを入れるとか。実際にこの間1件やりました。

 あと、土木の人間も向こうに行かせています。これから向こうのインフラ事業が日本の比じゃないくらい出てきます。日本の高度なインフラ技術が使える仕事に挑戦できるのであれば、やっていきたい。土木では今までそういうネットワークをつくってこなかったので、土木の人間を常駐させて準備しています。

――現地の建設会社と組むというのは?

 これからアライアンス、場合によってはM&A(企業の合併・買収)も考えていかなきゃいけない。そうしないと、なかなかネットワークが広がっていかないですよね。

――新興国で手掛けるのはODA(政府開発援助)案件が中心ですか。自社単独でもやりますか。

 現地政府相手に単独でっていうのは、今の段階ではリスクが多過ぎて厳しい。ODAであっても、先方の政府からなかなか契約通りにお金が出てこないということが、現実に起きています。

 大きなプロジェクトで、それなりにリスクがあるものに関しては、日本政府とよく連携を取って参画していく手法にならざるを得ないと思う。単独で現地の政府だったり、民間資本の仕事ができるようになってきているのは、シンガポールやインドネシアなど、ASEANの限られた国です。

 アフリカは古いところでは数十年前から(ODAで)仕事をしていますからね。そろそろ(ODA以外も)視野に入れてやっていかなきゃいけないんだろうけど、まだもうちょっと時間がかかりますね。