プロテスタントの国が経済発展した三つの理由

 ローマ・カトリックとプロテスタントの違いをより深く理解するには、現在のそれぞれの宗派の国を比較するといいでしょう。一六世紀のヨーロッパで力を持っていたスペインはカトリック。イタリアは当然のこと、フランスもカトリックです。

 ルターを生んだドイツは、諸侯がバチカンに反旗を翻したこともあり、プロテスタントが広まりました(カトリックも相当残りました)。続いてオランダや北欧もプロテスタントに改宗します。

 プロテスタントは、万人祭司の考えをとりますので、カトリックのローマ教皇のような最高権威的存在はありません。その一方で多くの分派があります。

 そのなかで重要なのは、イギリスで生まれたイギリス国教会です。

 一六世紀にイギリスは国王ヘンリー八世の離婚問題を機にローマ教皇と袂を分かちイギリス国教会(アングリカンチャーチ)が生まれました。国王の個人的な理由でできたイギリス国教会は、カトリックの影響が根強いプロテスタントという、なんとも微妙な立ち位置になっています。

 「もっと純粋なプロテスタントであるべきだ」と王に抗ったのが清教徒(ピューリタン)革命で、イギリスを離れ、メイフラワー号でアメリカに入植した最初の人々は清教徒だったといわれています。

 そのためアメリカは、プロテスタントの国となりました。アメリカが宗教的な国になったのには、この清教徒の存在が大きいのです。宗教の国アメリカでは、清教徒の他、メソジスト、バプティストなど多数のプロテスタントの宗派があります。

 このように、現在の欧米はカトリックとプロテスタント、東方正教会に分かれているのですが、興味深いのが、「二一世紀の今、経済的にうまくいっている」とされる国々には、プロテスタントである国が多い点です。

 「国の経済や財政に問題あり」とされているスペイン、イタリアはカトリック、経済危機に陥ったギリシャは東方正教会です。いったいなぜでしょう?

 ビジネスパーソンが押さえておきたいのは、なぜ、プロテスタントの国々が経済的に成功したか、その三つの理由です。

1 識字率

 翻訳・印刷された聖書を自分で読むようになったプロテスタントの人々は識字率が上がり、さらに本を読んで勉強するようになりました。

 たとえば、一七世紀オランダの絵画には、女性が本を読んだり、手紙を書いたりする姿が描かれますが、これはプロテスタントの識字率の高さを示すものと言えるでしょう。

 一般庶民の知的レベルが上がったので、プロテスタントの国々は一八世紀の産業革命の波にうまく乗ることができたのです。

 産業革命の担い手は工場で働く大量の労働者ですが、みんなで一緒に作業したり、新しい機械を使ったりするので、覚えることがたくさんあります。どんなに頭がいい人でも、一回聞いたくらいでは忘れてしまいます。

 そこで文字に書いたマニュアルやハウツーができるわけですが、これを利用できるのは字が読める人だけです。

 明治維新以降の日本が急速に近代化することができたのも、識字率が高かったからだといわれています。こうしてプロテスタントの国では技術力が上がり、技術力が上がるとともに経済発展していきました。

2 個人としての自立

 プロテスタントは「万人祭司」という立場をとるだけに個人主義的な傾向が強くあります。

 カトリックのローマ教皇のような「大元締め」がいないため、「自分なりに聖書を解釈し、自分がいいと思えばそれでいい」という人も少なくありません。

 プロテスタントを代表する言葉に、ルターによる「私は立つ」というものがありますが、これは神の前で自分が主体的に動くという意味で、「自主的に考えて行動する」という現代の働き方に近いものです。

 「指示待ちは良くない」などはビジネスエリートの常識ですが、これはプロテスタント的思考とも言えるのです。

3 「仕事=神の教えに従うこと」という概念

 プロテスタントのなかのカルヴァン派は、ルターの二六歳下のカルヴァンが唱えたもの。

 職業は神が与えたものであり、自分の仕事に専念することが修行であると説いたカルヴァンの『キリスト教網要』は広く読まれました。

 あらゆる欲望を絶ち、禁欲的に働くことが救いになるとの考え方は、その後のプロテスタントの職業観に大きな影響を与え、禁欲的に働いた上での蓄財は罪ではなく、新たな事業に投資して良いという考え方は、資本主義の思想と親和性があります。

 「働くことは良いこと」というのがカルヴァン派の仕事観であり、これがドイツ、イギリス、アメリカ、北欧の国々に影響をおよぼし産業革命につながった……。これはドイツの社会学者マックス・ウェーバーの説ですが、まさにその通りだと思います。