佐宗邦威(以下、佐宗) 『直感と論理をつなぐ思考法』でも、「課題をどう解決するかを考えるときは、いったん課題から離れてください」と言っています。課題から離れてボーッとしているときに、ほかの刺激に誘引されて解決策を思いつくことがあるからです。
これは意識してトップダウン型でも考えるけれど、課題から離れることでボトムアップ型の脳内ネットワークも動かすということなのかなと思いますね。

「創造する脳」にデザインできる

佐宗 使っている脳の部分といえば、僕も20代までは「自分が得意なのは分析であって、新しいことを考えるのは苦手だ」と思っていました。でもこの10年、デザインを勉強して頭の使い方を変えてからは、そういう苦手意識がなくなりました。そうした経験もあって、創造性というのは頭の使い方のトレーニング次第では、後からでも学べると思っているのですが、青砥さんはどう思われますか?

青砥瑞人(あおと・みずと) DAncing Einstein(ダンシング・アインシュタイン)ファウンダー/CEO
日本の高校を中退後、米UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)にて神経科学学部を飛び級卒業。脳神経の奥深さと無限の可能性に惹かれ、暇さえあれば医学論文に目を通す「脳ヲタク」。一方で、とくに教育には情熱を持ち、学びの楽しさと教えの尊さを伝えることが生きがい。研究者ではなく、「研究成果」を教育現場・ヒトの成長する場にコネクトし、ヒトの学習と教育の発展に人生を捧げている。脳×教育×ITを掛け合わせたNeuroEdTechを世界初で立ち上げ、この分野でいくつもの特許を取得している。

青砥 クリエイティビティに関連するようなゼロイチ的な脳の使い方は、天性のものだとよく言われます。でも僕も、天性はまったく関係ないと思っています。

本人にとって新しいもの、創造的なことを繰り返し考えていれば、「創造できる脳」になる可能性は高いんです。何回も何回も繰り返して創造していくうちに、いずれそのうちのいくつかが、他人にとっても新しい価値あるものになっていくからです。創造的な脳を育てるには、そのサイクルをいかに回し続けるかです。

創造的なことをすると脳のいろいろな部位が使われますが、ほとんどの人はそういう作業をなかなかしていません。脳の神経細胞はUse it, or lose itが原則ですから、使っていないせいで失われている能力が非常に多いわけです。

これは教育のせいでもあると思います。中学・高校時代、僕は「美術」の成績が悪かったんですが、悪い成績をつけられるとますますやる気をなくしますよね。新しくて価値あるものを創造しようとしているときに、他人からネガティブな評価をされると、モチベーションが低くなります。

創造プロセスと評価プロセスとでは、脳の使い方は別です。複雑な創造プロセスは脳のエネルギーをたくさん使いますから、モチベーションが低下するとやらなくなってしまうのです。とくにアート的、非言語的なアウトプットに対してネガティブなフィードバックをかけるのはよくないでしょう。「そのアウトプットが本人にとって新しく価値あるものであるのか」「どこが新しいポイントなのか」といった点を意識化・言語化するお手伝いをすることこそが、評価者の本当の役割だと思いますね。

佐宗 青砥さんも「美術」の成績が悪かったのですか(笑)。僕も同じく、いちばんの苦手科目でした。教育における「美術」の成績評価は、子どもの創造性を発揮するという観点からしても弊害になっていますよね。

大人の脳に大切なことは「経験」

佐宗 年齢によって脳の成長は頭打ちになるということが言われたりもしますが、大人が自分の頭のモードを変えていこうとしたとき、どういうことをすればいいのでしょう?

佐宗邦威(さそう・くにたけ)
BIOTOPE代表。戦略デザイナー。京都造形芸術大学創造学習センター客員教授
大学院大学至善館准教授東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科修了。P&G、ソニーなどを経て、共創型イノベーションファーム・BIOTOPEを起業。著書にベストセラーとなった『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』(ダイヤモンド社)など。

青砥 脳を知れば知るほど、多くの部位は後天的に育まれやすいことがわかります。ですから意識して創造し続けることで、創造性はある程度育むことができるのです。

ただ、佐宗さんがおっしゃるように年齢の問題はたしかにあります。脳部位により多少違いはありますが、だいたい生後4ヵ月で、脳の神経回路をつくるシナプスは最大値になります。そこから使われないものはどんどんプルーニング(刈り込み)されていき、20歳前くらいで落ち着きます。

では、20歳以降は脳を育てるのは無理なのかというと、そうではありません。20歳くらいから、経験値に重きを置いたシナプスが形成されていきます。つまり「やったか、やらないか」が、20歳以降のシナプスにとっては重要になるんです。

子ども脳では、シナプスのつながっている部分を強固にすることにエネルギーが使われます。だから学習が速いんです。他方で大人の脳は、つながりを強固にすることにプラスして、神経細胞を伸ばしてつなげる「神経伸長」という作業にもダブルにエネルギーが使われています。だからこそ、学習に時間がかかったり、多くのエネルギーを消費したりして、「向いていない」「やりたくない」とあきらめてしまいがちになる。とりわけ創造性は脳を複雑に使うので、この傾向が強いんです。