「製造の効率化の手助けなど、少しでも早く黒字化するために、できる限りの協力はしてやりたい」。かねて民間機セグメントの幹部が熱っぽく語っていたように、MRJ事業を成功させるためにはTier1事業とのシナジーの創出が不可欠だった。

 しかし、である。競争力を高めるためにM90の発展機を開発するならば、三菱重工が見据えるゴールは本来、製造部門を含むTier1事業とMRJ事業の完全統合であったはずだ。

 MRJ事業単体では、どんなにがんばってもこの先20~30年は投資回収ができないとされる。ただそれも、利益が望めるTier1事業と一緒にしてしまえば、統合事業全体として収益の安定化が望めるようになり、追加投資の正当性を社内外にアピールしやすくなる。

 にもかかわらず今回、一足飛びに完全統合までせず、MRJ事業部を民間機セグメント傘下に納めるにとどめた背景には、三菱重工のギリギリの判断があったといえる。

 というのも、Tier1事業で培った航空機の製造ノウハウには“ボーイング由来”が多く、「ボーイングが、MRJへの事実上の技術転用を嫌がる恐れがある」(三菱重工関係者)からだ。まずは民間機セグメント傘下でTier1事業とMRJ事業の間接部門の統合や人材の交流などの緩やかな連携から始めれば、ボーイングのご機嫌と反応を窺いながら量産化を着々と進めることができる。

「M100」の事業化を阻む
ローンチカスタマー不在問題

 一方、スペースジェットの量産化対策が進む中、三菱重工の連結子会社である三菱航空機では、営業部隊でも久々に大きな動きがあった。ここ最近は「遅延のペナルティーを支払うリスクを抑えるため、積極的な受注活動をしていなかった」(三菱航空機幹部)のだが、9月上旬、米メサ航空との間で、M90の発展機「M100(65~88席クラス)」100機の売買協議を開始すると発表したのだ。

 6月に明らかにした北米の顧客(具体名は非公表)との15機の売買協議を超える、2件目にしてM100初の大型協議の発表である。

 契約をものにするための最大の難関は、社内にある。実は、三菱重工はM100の事業化について、いまだゴーサインを出していないのだ。今年6月に開催されたパリ航空ショーで、2023年の市場投入を目指すと発表したのに、である。