理由の一つは、開発の後ろ盾として不可欠な航空会社、いわゆるローンチカスタマーを確保できていないことにあるという。売買協議を開始した北米の顧客もメサ航空も、「購入には興味を持ってくれているが、ローンチカスタマーの“最右翼”になってくれるとはとても思えない」(三菱重工幹部)。

 M100は、MRJ事業の命運を握る機体だ。スペースジェットの主力市場である北米では、大手航空会社とパイロット組合との労使協定にある「スコープクローズ」なる条項により、一定の座席数や重量を超えるリージョナルジェットは運航が認められない。この機体制限は、M90だと抵触するが、一回り小さいM100ならば免れることができる。

 ライバルもいない。M100と同じ70席クラスは、リージョナルジェット大手のブラジル・エンブラエルですら開発予定がないのだ。

 確かに、数千億円掛けて開発した挙句、市場投入する23年を前にスコープクローズが緩和されている可能性もゼロではない。しかし、M90はどのみち、「7年も初納入が遅れる間に、時代遅れの機体になってしまった。何より、造れば造るだけ赤字になりそうなほど安く受注してしまったこともあって、簡単に受注を増やせない状態にある」(同)。

 その点、M100は新たなコンセプトとなるので製造コストから調整し直せる上、座席数も最大88席と、M90に遜色ない。

 米アメリカン航空や米ユナイテッド航空といった、主要顧客になり得る体力のある大手エアラインをM100のローンチカスタマーとして口説き落とすことができるか。いくら量産化の体制が整っても、儲かる機体の受注が進まなければ意味がない。ここに来て、しばらく息を潜めていた営業部隊の役割が重くなってきている。