落とし穴(その1):
弱みを克服させようとする
マネジャーが陥りやすい1つ目の落とし穴は、「部下や後輩の弱みを克服させようとする」ことです。
人を指導するとき、その人の力量を見極めて、弱みを克服させようと考えるのは自然なことです。
例えば、人前で話すのが苦手であれば、スピーチやプレゼンの練習をさせます。
我々日本人は、「世間」を意識し、「恥の文化」を持っているため、なるべく弱みを小さくしようとする傾向が強いといえるかもしれません。
しかし、育て上手のマネジャーたちは、弱みを克服させるのではなく「部下の強みを探り、成長ゴールで仕事を意味づけている」ことがわかりました。
つまり、部下の持っているポテンシャルや埋もれた才能がどこにあるかを探し、その才能を伸ばすために成長ゴール(仕事経験を通して伸ばすべきスキルや能力に関する目標)を設定して、部下の強みを引き出していたのです。
なぜ、弱みよりも強みに注目する必要があるのでしょうか?
その理由はシンプルです。
弱みを克服するよりも、強みを伸ばすほうが、成長につながりやすいからです。
「強みの心理学の父」といわれているドナルド・クリフトンは「弱みを克服しても『-10』を『-4』にしか引き上げられないのに対し、強みを伸ばせば、同じ努力量で『+10』を『+40』にすることができる」と述べています。
ベストセラー『ストレングス・ファインダー2.0(StrengthsFinder 2.0)』の著者であるトム・ラスも、弱点を克服しようとする人に対して「いばらの道を選ぶな」と警鐘を鳴らしています。
なお、ここでいう弱みは、いくら頑張っても完全に克服することが難しい「先天的な弱み」を指します。これに対し、一見弱みに見えるけれども、努力次第で強みになりうる「可能性のある弱み」、つまり「潜在的な強み」もあることを認識しなければなりません。
強みを引き出す指導は、「ストレッチ(挑戦)」の中に「エンジョイメント(やりがいや意義)」を盛り込むアプローチであるといえます。