業務開始前のマネジメントの違い

 平田課長と育田課長のマネジメントの違いはどこにあるのでしょうか。平田課長の指導は決して悪いものではなく、むしろ頑張っているほうだといえます。しかし、彼の指導では、部下を大きく成長させることはできません。

 事例の下線部を中心に比較することで、両者の違いを見ていきましょう。

平田課長 部下が抱える弱みや課題を把握し、何とか弱みを克服させてあげたいと考えています。

育田課長 部下5名の強みやポテンシャルを書き出して、各自の強みが生かされる業務を任せています。力量に劣る部下もいますが、その人ならではの個性を認め、「君の〇〇力を伸ばせばいい」と期待の言葉をかけるのが彼のスタイルです。

 これを見てもわかるように、両マネジャーの違いは「視点」の違いです。部下の「弱み」が気になり、何とか克服させたいと思っている平田課長に対し、育田課長は「強み」や「個性」に注目しています。

 平田課長が、弱み中心のアプローチであるのに対し、育田課長は、強み中心のアプローチを採用しているのです。

 同じエネルギーを使うのであれば、弱みを克服するより強みを伸ばしたほうが、コストパフォーマンスが高くなります。

 次に、仕事の任せ方を見てみましょう。

平田課長 仕事を任せる際には、会社全体の視点から、「これはうちの戦略製品だから力を入れてください」「この取り組みは全社変革の一環だから、成果を上げましょう」というように、各仕事の重要性を伝えることを忘れません。

育田課長 部下に業務を任せるときには、組織的な重要性とともに、本人の成長との関係性も説明します。例えば、「君は3年後に〇〇部門への異動を希望しているけど、今取り組んでいる仕事は、あの部門が重視する交渉力を磨くのにもってこいだよ」と成長ゴールを示し、仕事を意味づけるように心がけているのです。

 仕事を任せることを「ジョブ・アサインメント」と呼びますが、このときに大切なことがアサインする仕事の意味づけです。

 平田課長が会社視点からの意味づけであるのに対し、育田課長は、会社視点だけでなく、部下本人の成長にとってプラスになることを明確に伝えています。

 モチベーションの期待理論によれば、ある行為をすることで、自分が得するという期待が高く、自分の力でそれができそうだと思うほど、その行為に対するモチベーションは高くなります。

 育田課長は、シンプルにこの原理を活用し、部下のモチベーションを上げているのです。