いずれもワイヤー治療に比べて「安い」「手軽」という点を競ってアピールする。ワイヤー矯正なら60万円は必要だが、マウスピース矯正は20万円程度から可能。ただし、安さだけに釣られるのは危うい。

 中でも「4万円から始められる」と段違いの格安アピールに若者が殺到する「キレイライン」では、この商品を主に扱うクリニックの院長の月収が200万円に及ぶという。

 マウスピース矯正は本来、ワイヤー矯正より歯を動かす力が弱く、対応できる症例は限られているのだが、キレイラインでは「ほとんどの歯並びに対応可能」とうたい、誤解を生むような広告表現でアピールする。

 患者が特に警戒しなければならない点が二つある。

 まず、そもそも装具を数年着けたままにするワイヤー矯正に比べ、自己管理が求められる。

 食事と歯磨き時以外、20時間以上、装着しなければ効果が出にくいとされる。だが、実際にそれだけの時間、装着を徹底できないケースも多い。歯科業界に詳しいある弁護士は「思うように矯正効果が出なくても、十分な時間、装具を着けていなかったのではと押し切られ、泣き寝入りすることになりやすい」と話す。

 二つ目に、自由診療であることもあり、トラブルが起きたとき患者側が守られる仕組みはほとんど整っていない。日本の法律ではマウスピースなどカスタムメードの矯正装具は、国内外で製作されたかどうかにかかわらず、薬事法上の医療機器に当てはまらない。特に海外で作られた場合は歯科技工士法上の矯正装置にも該当せず、単なる“一般物”の扱いとなる。

 ひと足先にマウスピースが普及した米国では、スマイルダイレクトクラブやインビザなどのマウスピース矯正を行った患者から、米食品医薬品局に腫れやアレルギー症状などの報告があり、すでに問題化している。

 それでも業者側がこぞってマウスピース矯正に触手を伸ばす理由は、日本で潜在市場が大きいからに他ならない。

 約10万人いる歯科免許を持つ医師のうち、「矯正歯科」を標榜する歯科医は2万人余り。ここがまず業者側のターゲットとなる。