コンピューターが人間並みに賢くなる。ロボットが人体を拡張してくれる。特集「ディープテックで行こう!」(全14回)では、#9~10の2回にわたって、そんな最もドラマチックな変化が起こる世界である「コンピューター&ロボット」分野で注目の「ディープテック」を紹介する。#10は同分野の注目7研究をお届けする。
コンピューター&ロボット 注目研究1
【国際電気通信基礎技術研究所】
思うだけで操れる「第三の腕」
近年、最も投資が盛んな科学技術分野は、何といっても人工知能(AI)だろう。機械が肉体作業だけでなく、知的作業まで代替するとして、「AI失業」を懸念する向きもある。だが機械と人間は必ず対立するものだろうか? 世界的には実は、コンピューターやロボットを使って人間の能力を拡張する研究も盛んだ。その一例として、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)ではSF映画さながらの研究が進んでいる。
被験者の女性が箱を支えてボールを転がす。両手がふさがっているところへ、脇からボトルを差し出す。すると背後に据え付けられたロボットアームが、すっと上がってボトルをつかむではないか(上写真)。「これは非侵襲型のブレーン・マシン・インターフェース(BMI)です」。研究の主要メンバーであるペナロサ・クリスチャン氏が説明する。
BMIとは、脳内の電気信号を読み取って機械を動かす技術だ。被験者がかぶっている帽子には電極が複数付いており、手を動かすときに発生する一定の脳波を計測している。「ボトルをつかみたい」と考えれば、その思念が脳波として計測され、それに応じてロボットアームが動く仕組みだ。脳波を精緻に計測するには、頭蓋の中に電極を入れる侵襲型が望ましい。だが開頭しない非侵襲型でも、被験者15人中8人がうまくアームを操作できた(2018年7月発表の実験データ)。
BMIにはすでに40年程度の研究史があるが、けがや病気で身体にまひがある人を助ける技術としての研究が多い。そういった中、ATRの研究は、両手を使える人がマルチタスク目的で3本目の腕を使えるかどうか探ったところに特徴がある。
世界的には、米フェイスブックが考えるだけで文章入力が可能になる非侵襲型技術を開発しているほか、連続起業家のイーロン・マスク氏が侵襲型のBMIに取り組んでいる。クリスチャン氏は「近年急速に発展した画像認識や機械学習といったAI技術と融合することで、BMIの可能性は大きく広がる」と言い、自身もBMIの商用化を目指す企業(ミライ・イノベーション)を16年に設立した。27年には世界市場規模2兆円に達するとの予測もある。