「オレの提案してる企画はクソだ!」と思った
塩田:周さんは「役に立つより意味がある」という考えに傾倒していくきっかけはあったんですか?
山口:僕はこれまでコンサルをやっていたんですが、コンサルって基本的に「役に立つものを作る」のはすごく得意なんですけど、有り体に言うと、顧客に金をドブに捨てさせたな……というのがあって……。
塩田:どういうことですか?
山口:アカウンタビリティを持たせようとすると、どうしても市場調査をやって、エビデンスを付けてってなるじゃないですか。僕もやっていましたし、部下にもそうさせていました。そうじゃないと、顧客は受け入れてくれないですよね。でも、それで作ると、だいたいショボイものになる。他とたいして変わらないとか。
だけど、「そこは言わないで!」「そこは問わないで!」という感じでやってきたんですけど、さすがに認めざるを得ない。「オレが提案しているこの企画はクソだ!」と思って会社を辞めました。10年前くらいですね。
塩田:それって、たとえばどんな企画ですか?
山口:携帯電話のプロジェクトなんて、最盛期に会社は年間12億とか払っていて、それを10年くらいやっていたから、クライアントは100億円以上も払っていたわけです。
でも今、何一つモノになっていない。これってドブに捨てたのと同じですよ。こんなことなら、交通事故遺児の学費とかにしていれば、日本はもうちょっといい国になったなと思って。
塩田:僕らも何度か(コンサルに)お願いしたことがあるんですけど、やっぱりはまらなくて。それってどうしてなんでしょう。
山口:そもそもマーケティングとか経営学って、学問的に20世紀半ばに出来上がったもので、その時代の価値に最適化していると思うんです。
当時って、みんなが「いろんなことに困っている」時代だったわけです。たとえば、昭和30年代って、お風呂がある家って3割くらいしかないんですよ。7割は銭湯に行って、それも毎日行けるわけじゃないから、週に2回とか。真夏の暑い時期に「週2」しか風呂に入れないなんて、最悪じゃないですか。
それだけみんな「困っている」んです。だから、「何に困っているのか」「困っている人は何人くらいいるのか」「いくらだったら、その問題にお金が払えるのか」という3つを調べて解決策を提示すれば、ビジネスができたんですよね。
塩田:まさに正解が求められた時代ですね。
山口:本当にそう。そこら中に「困っていること」があって、それを解決することにお金を払うという価値がシステムの中で出来上がっていたんですよね。統計もそうだし、マーケティングも、その時代に発展したものですから。
優秀さって「その時代における希少なものを出す」ということだから、問題がそこら中にあって、ソリューションが足りなかったら、それがお金になったんですよね。
でも「時代における希少なもの」は当然変わります。みんながわかりやすく「困っていること」というのがなくなってきたときに、やっぱり「機能的価値」から「感情的価値」へと移ってきたんだと思います。
「困っていること」を機能で解決するんじゃなくて、「なんか潤いがある」とか「ドキドキする」とか何でもいいんですけど、そういう感情の部分に価値が移ってきている。
でも、そもそも感情ってロジックじゃないんで、やっぱりメソッドとか、統計とか、そういうものとソリが合わないんでしょうね。
(第2回へ続く)