自宅でコーヒーを淹れるとき、使うお湯の「温度」によっても味は大きく変わる。だが、初心者にとっては、どう変えればいいのかわからないはず。焙煎度合いや、好みの味に合わせて、温度を調整するコツを伝授。
日本テレビ系列『嵐にしやがれ』、NHK『逆転人生』にも出演し話題沸騰のワールド・バリスタ・チャンピオン、井崎英典氏が初めて書き下ろした『ワールド・バリスタ・チャンピオンが教える 世界一美味しいコーヒーの淹れ方』から、その内容の一部を紹介する(撮影:京嶋良太)。
コーヒーの抽出に理想的な温度帯の幅は、好みに応じて約80度から100度の間で決まります。私が普段から目安にしている温度帯は次の通りです。
【お湯の温度】ドリップ:92度
また、お湯の温度は濃度感につながりますので、好みの濃度感や味わいを理解した上で、基準となる温度帯を決めましょう(濃度感については、第17回をお読みください)。
そして次に考慮すべきは、焙煎度合いです。焙煎度合いによっても、理想的な温度帯が上下します。下記にドリップの場合の目安となる温度帯を明記します。
【浅煎り】基準となる温度から2~4度高め
【中煎り】基準と同じ温度
【深煎り】基準となる温度から2~4度低め
なぜ、焙煎度合いによって理想的な抽出の温度が変化するのでしょうか。その理由は、焙煎度合いによって可溶性固形分の溶解度合いが異なるからです。
焙煎前の生豆の細胞は、細胞膜を細胞壁が取り囲んでいる構造をしています。生豆の細胞壁は、他の植物に比べて非常に厚い構造をしており、焙煎によって生豆に熱を与え、その組織を軟化させて初めて抽出が可能となります。
焙煎が深くなればなるほど、組織が柔らかくなり、それほどのエネルギーを要することなく、可溶性固形分はお湯に溶け出します。反対に、焙煎が浅くなればなるほど、お湯のエネルギーを利用して抽出しなければ、可溶性固形分を効率的に抽出することができません。
したがって、焙煎度合いが深煎りか、浅煎りかにかかわらず同じ温度帯のお湯を使用した場合、過抽出や未抽出に陥る可能性があります。すなわち、焙煎度合いに応じた湯温を選択することで、適正量の可溶性固形分を抽出することができるのです。
可溶性固形分をお湯に溶解させることがなぜ重要かと言うと、それはダイレクトにコーヒーの味わいに影響を与えるからです。コーヒーの持つ、甘味、酸味、苦味、フレーバーをきちんと抽出するためには、適正な量の可溶性固形分をお湯に溶け込ませる必要があります。
反対に、適正量の可溶性固形分をお湯に溶け込ませることに失敗した場合、それは濃度の薄さや、酸っぱさ、エグ味などにつながります。
また、水の温度帯によってコーヒーの味わいが変わるのは、水側にも理由があります。水は、温度が上がれば上がるほど水分子の運動が激しい状態を意味します。高温だと分子の熱運動が盛んなため、コーヒーの成分を低温よりも強く引き出すことができる「抽出力」の強さに直結します。
例えば、浸漬法の代表であるフレンチプレスは、「注ぎ切り」タイプの抽出方法です。一度でお湯を注いで後は待つだけ、という純粋にお湯の抽出力に頼った抽出方法ですので、約100度が望ましい温度帯と言えます。
その反対に、透過法の代表格であるドリップは、「複数回に分けて断続的に注ぐ」タイプの抽出方法です。お湯の対流によって抽出を促し、新鮮なお湯を断続的に注ぎ続けるからこそ、フレンチプレスより低い温度帯である92度から96度程度が良いとされています。
この特性を利用すれば、いつもの温度では濃すぎるな、と言うときには温度を下げるだけで濃度感が薄まりますし、もう少し濃い方が良いな、と思うときには温度を上げることでその問題を解決することができます。濃度の抜本的な調整には粒度変更が最適ですが、微調整には温度帯の変更で対応しても良いでしょう。
【濃度を上げたい】温度を2~4度「上げる」
【濃度を下げたい】温度を2~4度「下げる」
より良いコーヒー体験を求めるなら、自分好みの味を正しく把握し、焙煎度合いによる適切な温度帯を知った上で、柔軟に温度を変える必要があるのです。