かつ、厚労省内で感染症研究所を所管するのは大臣官房厚生科学課という、さまざまな下部組織をまとめて管理するだけの部署ですが、感染症対策を所管するのは健康局結核感染症課という別の部署ですので、組織内の力関係で考えると、感染症研究所が本省の意向に逆らうようなことをできるはずがありません。

 いずれにしても結論として、専門家の純粋に科学的な見地からの知見が十分に生かされなかったからこそ、クルーズ船への政府の対応は混乱を極め、結果的にコロナウイルスの蔓延を防げなかったのではないでしょうか。

専門家会議のトップ2人が厚労省の手駒
会議のお膳立ても厚労省の事務方

 そして、同じことが今回の「基本方針」の策定の過程でも起きていると推測できます。というのは、専門家会議の座長は、厚労省の事務方の意向に配慮することに慣れた感染症研究所の所長が務めています。かつ、副座長は地域医療推進機構の理事長が務めていますが、この機構の複数の理事ポストには厚労省の元役人が天下りで行っています。

 つまり、専門家会議のトップ2人が厚労省の手駒で、かつ会議のお膳立てをするのが厚労省の事務方なのですから、専門家会議とは名ばかりで、専門家の純粋に科学的な見地からの意見を踏まえて対応を議論するというより、厚労省の事務方が書いた筋書き(厚労省の役人が手堅くできると考えた対策の羅列)を裏付けることしか、できなかったのではないかと思います。

 だからこそ、専門家会議の「提言」も、冒頭こそ「これから1~2週間が瀬戸際」という強烈な危機感を発しているのに、後段に列挙された対策を見るとすでに言われてきた凡庸な内容ばかりで、それが「基本方針」にも受け継がれてしまったのではないでしょうか。

 また「基本方針」では、「イベントなどの開催について、現時点で全国一律の自粛要請を行うものではない」と明言しておきながら、翌日すぐに安倍首相がこれから2週間の間に開催されるイベントの自粛を要請するという、朝令暮改の典型のようなことをやってしまったのも、対策の内容が専門家の科学的な見地に基づく信念あるものではないことの証左ではないかと思います。