結局Uberでは「中途半端な勝ち」に。「やっかいな人」に理詰めではうまくいかない

安永 そこまではなんとか行けたんです。当時の報道を見ていただくとわかるんですが、「ついにUberもタクシーに」という機運も盛り上がっていたんです。でも、結局はビジネスチームが変わらず、「やってやってもいい」という上から目線の営業姿勢を崩さなかった。そこが、最終的に私がUberを出た理由のひとつでもあるんです。

入山 それで結局、上から目線のままで、なし崩しになって終わってしまった?

安永 いま東京でUberというと、高いハイヤーしかまだないですよね。ようやく外の人たちが仲間になりつつあったところを、内側にいた「やっかいな人」たちにやられてしまった。結局問題は、本社にはタクシーをやっていた歴史がほとんどなかったということなんです。ライドシェア以外のビジネスモデルの組み立て方がわからなかったので、結局ライドシェアと同じビジネスモデルで売ろうとして失敗した。

入山 残念ながらUberのサービスは日本で進んでいないというのが現状なわけですね……。そのご経験から得られる安永さんの「やっかいな人」に対応するときの教訓などはありますか?

安永 さきほど入山先生のおっしゃった3つ目のポイントだと思うんですけど、「人は変えられない」というところですね。我々ロビイングチームは、このハーバードビジネススクール出のビジネスチームのトップを変えようと思った。逆に向こうもこちらを変えようと思っていた。だから理詰めで来るんですよね。そして私のほうも、理詰めで返してしまう。

入山 先ほどの私の講演でも言いましたが、理詰めと理詰めの戦いは時に感情勝負になってしまいますからね。うまくいかないですよね。

安永 そうなんです。なのでビジネスチームに対する私の対応は失敗でした。逆に、外のタクシー業界に対しては、理詰めでは行かず、かなり根回しをしたんです。とはいえ、あのとき反対していたビジネスチームの人たち、全員、もうUberにはいないんです。

入山 アメリカ企業にありがちですね。バリューアップを手土産にすぐに転職してしまいますからね。

安永 だったら、こちらが思うようにやらせてくれてもよかったのに!と思うんですけどね(笑)。

入山 安永さんご自身もUberから移られた今、 当時のご経験が生かされているなということはありますか?

安永 Uber以前・以後で、日本のベンチャーのロビイングは大きく変わったと思うんです。Uberが皆の反面教師になっている。電動キックボードや空飛ぶ車など、いろんな新しいモビリティが出てきていますが、皆Uberの失敗した事例を見ながらやっています。

 私は今いろいろな会社をお手伝いしていますが、最初にどの省庁の誰に話をしに行けばいいかなど、Uberのときより格段にやりやすくなっているんですよね。だからあまり「無理やりビジネスをする」という感じがないんです。

 これもUberで「やっかいな人」たちと渡り合ってきた効果なのかな、と思ったりしています。

<了>