「スタートアップ村」の性善説とNDA
朝倉:別の論点として、今までのスタートアップコミュニティーが基本的には性善説に基づいて成り立ってきたということもあるかもしれませんね。「スタートアップ村」は、一見、ライバル関係のように見えつつも、実はかなり互助精神があったりするじゃないですか。起業家間はもとより、起業家とVCの間でも、ほのぼのとした雰囲気がある。冒頭の記事を書かれたコーラルキャピタルのジェームズさんにしても、彼自身がもともとはスタートアップを経営していた側の人だったわけですし。
これ、「スタートアップ村」の外から来た人から見ると、ある意味で奇妙な光景ですし、そうであるからこそ「村の連中は小さいコミュニティで馴れ合っている」と揶揄されることもあるわけですよね。周囲からの見え方はどうあれ、これ自体はスタートアップを巡るコミュニティの美風だと私は思いますが。一方で、スタートアップが注目されるようになり、新規の当事者がこれだけ増えてくると、今までのスタートアップ村のプロトコルが通用しにくくなりつつあるようにも思います。性善説に立ち続けるのは難しいのかもしれない。そうした変化に警戒心を持つ人や、「村」の外から来た人からすると、身構える気持ちがあるのは、無理からぬことだと思います。そういう意味でいうと、シードないしはアーリー期でも簡易に締結できる、NDAの共通雛形を作ってしまえばいいのかもしれませんね。
小林:フォーマットには非常にニーズがあると思います。
朝倉:求められるNDAの水準はステージごとに大きく異なります。特に手間を省きたいシード期に特化したひな形があったとしたら、便利なんじゃないでしょうか。
NDAではありませんが、投資契約書に関しても同様の思いを抱きます。エンジェル出資に際して、懇意にしている弁護士に投資契約書を作ってもらったことがあるのですが、ボリュームも多く、内容も随分と堅かったんですね。例えば、「事業計画書の提出義務」と言った記載がある。でも、エンジェル出資の段階では、カチッとした事業計画書なんてそもそもありませんし、実効性もない。初期の投資契約で求められる内容って、極端な話、反社会的勢力の排除に関する表明保証、その程度のことだと思うんですよね。最低限の内容だけ残し、エンジェル出資には余計な条項をばさばさ切っていったら、結果として随分とシンプルなものになりました。
小林:そうですね。もう一点、最近感じるのが、NDAを介さずとも、会社の魅力を発信する方法も増えてきているということです。ミラティブやシニフィアンの出資先であるSmartHRなどは、自社のディープな情報まで工夫して発信しているように見受けます。各スタートアップで、発信の仕方を工夫するということは、NDA締結可否検討と並行して行ってもいいのかもしれませんね。
*本記事はVoicyの放送を加筆修正し(ライター:代麻理子 編集:正田彩佳)、signifiant style 2019/11/13に掲載した内容です。