もう少しわかりやすくするために、次の図を見ながら説明したいと思います。

どんなアート作品にも「2通りの鑑賞法」があるイラスト:末永幸歩

作品の「背景」に触れるときに忘れてはならないのは、「やりとり」ができているかということ。ちょっと難しい言い方をすれば、「作品の背景」と「鑑賞者」とのあいだに双方向的な関係性が不可欠だということです。

ここまでの「アート思考の教室」で体験していただいたとおり、作品の「背景」は、本来、鑑賞者にさまざまな「問い」を投げかけているはずです。それが図のなかの「緑色の矢印」です。

「目に映るとおりに描いた絵だけが『すばらしい作品』なのだろうか?」
「『リアルさ』は、遠近法だけでしか実現できないのだろうか?」

私たちはこれらの問いに向き合うことで、「自分なりの答え」をつくろうとしてきましたね。それが図のなかの「オレンジ色の矢印」に該当します。
ここまでの授業では、かなりじっくりと「背景とのやりとり」をやってきましたので、その面白さはある程度実感していただけていることと思います。

では、もう1つの見方、「作品とのやりとり」とはどのようなものなのでしょうか?
こちらについては、次の図を見てみましょう。

どんなアート作品にも「2通りの鑑賞法」があるイラスト:末永幸歩

こちらの図では、作品を中心にして、左右にアーティストと鑑賞者がいます。
アーティスト自身も作品とやりとりをしながら、作品をつくり上げています。それが、「緑色の双方向の矢印」です。

「モネの《積みわら》から得た感覚を再現するにはどうしたらいいだろう?」
「具象物の形や色を変えて描いてみたが、これは思ったものではない」
「音楽のイメージをもとに描けば『具象物が存在しない絵』になるのでは?」

アート作品が、アーティストと作品とのこうしたやりとりのなかで生まれることは間違いありません。
しかし、「作品とのやりとり」には、もう1つまったく別の矢印があります。それが、鑑賞者と作品との間にある「オレンジ色の双方向の矢印」です。