『利己的な遺伝子』のリチャード・ドーキンス、
『時間は存在しない』のカルロ・ロヴェッリ、
『ワープする宇宙』のリサ・ランドール、
『EQ』のダニエル・ゴールマン、
『<インターネット>の次に来るもの』のケヴィン・ケリー、
『ブロックチェーン・レボリューション』のドン・タプスコット、
ノーベル経済学賞受賞のダニエル・カーネマン、リチャード・セイラー……。

そんな錚々たる研究者・思想家が、読むだけで頭がよくなるような本を書いてくれたら、どんなにいいか。

新刊『天才科学者はこう考える 読むだけで頭がよくなる151の視点』は、まさにそんな夢のような本だ。一流の研究者・思想家しか入会が許されないオンラインサロン「エッジ」の会員151人が「認知能力が上がる科学的概念」というテーマで執筆したエッセイを一冊に詰め込んだ。進化論、素粒子物理学、情報科学、心理学、行動経済学といったあらゆる分野の英知がつまった最高の知的興奮の書に仕上がっている。本書の刊行を記念して、一部を特別に無料で公開する。

Photo: Adobe Stock
著者 スティーブン・M・コスリン
スタンフォード大学行動科学高等研究センターのディレクター。著書に『イメージと知性(Image and Mind)』

推論や意思決定能力を
向上させる「制約充足問題」とは

 制約充足問題は、私たちが推論や意思決定の能力を向上させるのに非常に有効である。「制約」とは、ここでは、問題を解く際、あるいは意思決定をする際に考慮すべき条件を意味する。また「制約充足」とは、ある制約を満たす過程を指す。重要なのは、同時に複数の制約を満たす方法は通常、そう多くはないということである。

 たとえば、私が新しい家に引っ越しをする。その場合、妻と私は、部屋に家具をどう配置するかを決定しなくてはいけない。ベッドのヘッドボードは、古くなってかなりぐらついていて、壁にもたれかけさせる必要がある。ヘッドボードの配置には制約があるということだ。ほかの家具にもそれぞれに条件があり、そのせいで、置く場所には制約がある。

 特に問題なのは2つの小さなエンド・テーブルである。これはそれぞれ、ヘッドボードの脇に置かなくてはいけない。部屋のどこかに椅子をひとつ置く必要があるが、椅子のそばには読書灯も置かなくてはならない。古いソファは、後ろの脚が片方なくなっているので、脚の代わりに本を何冊か重ねて置く必要がある。当然、その本が見えないようにソファは置きたい。

 驚くのは、だいたいいつも、ヘッドボードをどの壁にもたれさせるかを決めれば、あとの家具の配置はほとんど自動的に決まることだ。ヘッドボードをひとつの壁にもたれさせれば、ソファを置けるような長い壁はもうひとつしか残っていないのが普通だ。ソファを置いたら、椅子とランプを置く場所は必然的に決まってしまうだろう。

 通常、制約が増えるほど、それを同時に満たす方法は少なくなっていく。特に強い制約が数多くあると、満たす方法はさらに少なくなる。私たちの家具の例で言うと、エンド・テーブルの配置に関わる制約は強い制約と言える。強い制約なので、満たす方法は非常に限定される。それに対し、ヘッドボードの配置の制約は、比較的弱い制約なので満たす方法は意外に多い(もたれさせるのは、壁であればどの壁でもいい)。

 制約と制約の間に矛盾があった場合にはどうすればいいのだろうか。たとえば、ガソリンスタンドが近くにないところに住んでいるので、電気自動車が買いたいが、高くてとても買えない場合はどうか。

 制約は必ずすべてが同じように重要とは限らない。すべての制約を満たせなくても、最も重要な制約さえ満たせれば、全体としては満足のできる結果になる場合も多い。ガソリンスタンドが遠くて頻繁に給油ができないという意味では、電気自動車を買うのが最善なのだろうが、ハイブリッド車にすれば燃費がとても良くなるので、何とかそれで大丈夫という状況もあり得る。

どうすれば制約を満たせるか

 どうすれば制約を満たせるか、それを考えるときには、今わかっている以外に制約はないかと考えてみると良い結果につながる

 たとえば、購入する車を決める際、(a)予算、そして(b)ガソリンスタンドが遠い、という2つの制約があるとすぐにわかったとする。そこに、自分の目的に合った車の大きさや、保証期間の長さ、デザインなども選ぶ条件に加えるのだ。

 制約が増えると、妥協できるものもたいてい増える。ある制約(たとえば燃費)はよく満たすのだが、あまり満たせない制約(デザインなど)があるなど。たとえ満たしにくい制約であっても、加えるだけで決断に役立つはずだ。

 制約を満たすプロセスはさまざまな場面で必要になる。いくつか例をあげておこう。

・探偵(シャーロック・ホームズからメンタリストまで)が事件を解決するとき。この場合は、見つかった手がかりが制約となる。その制約をすべて満たせれば、事件を解決できる可能性が高い。
・結婚相談所。顧客が相手に望む条件が制約となる。どの制約がより重要かを見極めて、どの人が最も紹介するにふさわしいかを判断する。
・新居探し。新居に望む条件がすべて制約となる。広さ、価格、立地、近隣の環境といった条件のうち、どれが重要かを考えて、どの物件が良いかを決める。
・朝の身支度。着ていく服を選ぶ際には、色やデザインなどの条件が制約になる。

使える食材が限られていると
斬新な料理が生まれる

 なぜ制約を満たすという考え方が重要かといえば、問題の完璧な解決策は多くの場合、存在しないからである。だから、今、どのような制約があるかを考えて、そのうちでどれが重要か、あるいは最低いくつの制約を満たせばよいかを判断するという方法を採るわけだ。

 ただ、長い時間をかけてよく考えれば、それに比例して制約をよく満たせるわけではない。ひとつひとつの制約について順に考えていって結論を出す人はあまり多くないだろう。たいていの人は、すべての制約について一度に考えている。それも意識的に考えるのではなく、ある程度、考えたらしばらく忘れてしまうのだ。そうして無意識に考えさせる。あまり根を詰めて考えるより、無意識に考えさせるくらいのほうがかえって良い妥協案が浮かびやすい。

 さらにもうひとつ重要なのは、制約の多い状況に置かれると、人間の創造性は向上する可能性があるという点だ。たとえば、斬新な料理が生まれるのは、使える材料が限られているときが多い。使いたいが手に入らない材料があれば、その代わりになるものを考えざるを得ない。そのおかげで今までになかった発想が浮かぶ。

 また、制約条件に変更を加える、あるいは特定の制約条件を排除する、新たな制約条件をつけ加えることでも創造性は高まる。アインシュタインの大きなブレークスルーは、「時間は必ずしも同じ速さで過ぎるとは限らないのでは?」と気づいたために起きた。

 制約を増やすと創造性が高まるというのは逆説的だが、実際にそういうことはある。自由な状況は良いが、自由は混沌にもつながる。制約があまりに少ないと、混沌としていて対応を考えるのが難しくなるときもある。