いま、新型肺炎コロナウイルスの感染拡大を受けて、人々の「心」にも何かが起きている……。アメリカ・ロサンゼルス郡で日本人として唯一、メンタルクリニックを開業している精神科医・久賀谷亮氏のところには、この数ヵ月で「不眠」や「不安」を訴える患者が急増しているという。また、具体的な症状にまでは至らないまでも、この不確実な状況に由来する「ストレス」や「疲労」は蓄積しつつある。
はたして、自分の脳や心を守るためには、どんな点に気をつければいいのか。また、不安や不眠などを感じたときには、どんな対処法があるのか。有効な手立てについて久賀谷医師に聞いた(聞き手:藤田悠)。
「よくわからないが、
なんとなく疲れている…」と感じる人たち
――お住まいのアメリカ・カリフォルニア州では、日本のおよそ1ヵ月前の3月4日に、非常事態宣言が出されました。いま、アメリカのみなさんのメンタルにはどんなことが起きていますか?
アメリカでも、3月以前までは比較的落ち着いた対応がなされていました。しかし、非常事態宣言が出たあたりがターニングポイントになり、こちらでも「買い占め」などが起こりました。いまは当初のパニックが落ち着いてきて、みなさんが新しい生活になんとか適用しようとしている段階ですね。
しかしその前後から、クリニックにご相談にいらっしゃる方が急増しています。とくに多いのが、夜中にいろいろ考えてしまったり、不安になったりして、眠れないという患者さんですね。とにかく「不眠」の症状を訴える方が圧倒的に多いです。
しかもいまは、感染リスクがある以上、「とにかく病院には行かないほうがいい」というのが常識ですから、現段階ではすべてオンライン診療に切り替えていますが、このタイミングで病院に連絡してきて、実際に診察を受ける方は、かなり強く症状が出ているケースだと考えられます。
――クリニックを受診される方は「氷山の一角」であり、それ以外の人の心にもかなりのストレスが溜まっているわけですね。
そう思いますね。患者さんたちにお話を聞くと、みなさん表現に苦労されながらも、「地に足が着かない感じ」とか「何かよくわからないがとにかく疲れる」とかいう言葉を漏らされます。不安を診断する「Anxiety Test」というサイトでは、すでに2月時点でのアクセス数が20%近く増えていたそうですから※、漠然とした不安を抱いている人は膨大にいると思います。
震災のときにも、これと似たようなことが起きていました。具体的な危機に直面したとき、私たちはまず身の安全を確保しようとします。もちろん、相手はウイルスですから、身体の安全を高めることが第一です。
しかし、そのせいでメンタルにダメージが蓄積していることに気づけない。このウイルスとの戦いはどうやら「長期戦」になりそうですから、「どうやって自分の脳や心を守るか?」という観点も、これからは大事になってくると思いますね。