「目をつむって描いたみたい」
「なにも考えないで描いたんじゃないかな」
「酔っ払っているときに描いた?」
「むしゃくしゃしている感じ」
――どこからそう思う?
「怒りにまかせて描きなぐったようなごちゃごちゃな線がたくさんあるから」
「白黒中心で色合いが暗いから」
「チューブから絵の具を直接出して描いたんだと思う」
「すごい量の絵の具を使いそうだね」
「お好み焼きにマヨネーズをかけるときに使う道具みたいなのを使ったんじゃないかな」
「1人ではなく何人かで描いたとか」
「カッターで激しく切り裂いたみたいに見える」
「筆についた絵の具を振って飛ばして描いたんだと思う」
――どこからそう思う?
「(とくに白い絵の具は)直線的な部分が多いから」
「黒い絵の具が先で、白い絵の具は後に使ったんじゃないかな」
「白い絵の具は粘度が高いと思う」
――どこからそう思う?
「よく見ると、白い絵の具のところに影があって、絵の具が盛り上がっているのがわかる」
「白と黒以外にも、グレーが使われている」
「2つの色を混ぜてグレーの絵の具をつくったのかな」
「赤や黄色の点々がある」
「水滴を落とすような感じで、色のついた絵の具をポトッと落としたみたい」
「適当に描いているようでいて、案外色のバランスがとれている」
「この絵は上下がないみたいに見える」
「あ、下の真ん中あたりにサインが描かれている」
「右上と左のほうに、黒い手形のようなものがある」
「右上の黒い影は、もしかしたら足跡かな?」
――そこからどう思う?
「描いた人の動きが感じられる絵だと思う」
「この絵がどうやって描かれたか?」について、じつにさまざまな憶測が飛び交いました。乱雑に描いたようにしか思えなかった《ナンバー1A》ですが、じっくりと見てみると、案外いろいろな発見がありますね。
みなさんの推測どおり、ポロックはこの絵を一風変わった方法で描いています。彼の描き方は、机の上に紙を置いたり、イーゼルにキャンバスを立て掛けたりといった一般的なものとはまるで違っていました。
ポロックはまず、部屋の床に大きなキャンバス生地を直接敷きました。そして、片手に絵の具がたっぷり入った缶、もう片方の手には筆や棒などを持ちます。筆や棒に絵の具をたっぷりと含ませると、腕を振ってそれをキャンバスに撒き散らしていきました。
ポロックは椅子に腰掛けることなく、キャンバスの周りを動き回りながら描きます。ときには缶から直接キャンバスに絵の具を流し込んだり、手の平や足の裏についた絵の具をこすりつけたりすることもありました。
しかし……描き方が斬新であるというだけで「歴代5番目の高額取引された作品」になってしまうというのは、まだ腑に落ちないのではないでしょうか。