そこで、Couvreur氏らは今回、アデノシンと呼ばれる、アデニンとリボースからなる抗炎症作用のある極めて微小な“ナノ粒子”に着目。そのままでは深刻な副作用が引き起こされる可能性があるアデノシンを他の成分と混合し、ナノテクノロジーを活用した新しい投与方法を試みた。
Couvreur氏らは、まず、アデノシンと同じく、体内にもともと存在する脂肪の一種であるスクアレンにアデノシンを加えた“マルチドラッグ・ナノ粒子”を作製。次に、このナノ粒子を強力な抗酸化物質でビタミンEの一種であるα-トコフェロールの中に封入した。この粒子を、ナノテクノロジーを用いて、敗血症、あるいはサイトカインストームに似た過剰な免疫反応状態のマウスの組織に送達した。その結果、炎症誘発性サイトカインである腫瘍壊死因子-α(TNF-α)が減少した一方で、抗炎症サイトカインであるインターロイキン-10(IL-10)が増加したことが明らかになった。また、治療開始から4時間後には、肺や腎臓などの重要な臓器でこの変化が認められた。
動物実験で得られた結果は、必ずしもヒトに応用できるとは限らないが、感染症の専門家で米ツーソン医療センターのMatthew Heinz氏は「この結果は理にかなったものだ」と評価。「この技術を用いることで、重篤なCOVID-19患者のサイトカインストームに打ち勝てる可能性を示すエビデンスが得られたことは心強く、励みになる」と期待を示している。(HealthDay News 2020年4月28日)
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