「原体験であいた大きな穴を
人生かけて埋めていっている」
――入社1年目は人事に配属されたそうですが、コピーライターを目指したキッカケは何ですか?
阿部 ジェラシーですね。人事で学生のインターンシップの運営に携わる機会があったんです。年の近い学生たちが、目をキラキラ輝かせてプレゼンをしている。僕はそれを後ろでビデオ撮影していたんですが、あっち側に行きたいと熱烈に思ったんです。
――阿部さんは多岐にわたる活動されていますが、軸となるものは何ですか?
阿部 中学のときにうまく友達をつくれなかったという経験が原点にあります。サッカー部に体験入部したのですが、ついていけず、やめてしまった。友達ができず、休み時間はずっと読書をしていた。放課後に居場所がなくて、逃げ帰るように帰宅して、録画した「笑っていいとも」をコーヒー牛乳飲みながら見ることだけが楽しみだった。このままでは誰の思い出の中にも自分がいないんじゃないか、と怖さを感じました。そして変わりたいと思った。アメフト部に飛び込んで、そこから変わっていけました。居場所づくり、感動の蓄積、人と人とのつながりを感じることを大切にしたい。言葉を通じて「自分はひとりじゃないんだな」と思える働きかけをしていきたい。コピーライターだけじゃなくて、プロデュースとか作詞とか、いろんなことをやっているけど、全てはそこに紐付いています。
原体験であいた大きな穴を人生かけて埋めていっている感じですね。音楽を聴くことが好きで、「僕の気持ちを歌ってもらえてる!」と勝手に思ったロックバンド「クリープハイプ」に宛てて企画書をつくり、持ち込んだことをきっかけに一緒に仕事させてもらうことができました。その仕事を見てくれた方が僕に作詞の依頼をしてくださったり。映画を観るのが好きで、偶然、大学の同級生の松居大悟さんが映画監督になっていて、宣伝に関わらせてもらって、そこからプロデュースにも関わるようになりました。
――コロナをきっかけに言葉の使い方は変わりましたか?
阿部 みんながSNSで感情をぶつけあうことで「分断」という現象が起こってしまっていますよね。それを手当てする絆創膏みたいな、気持ちのつながりをつくる言葉が求められているのかなと感じています。
最近ですと、吉本興業さんの「#吉本自宅劇場」というプロジェクトに関わりました。芸人さん達が劇場に立てなくなってしまったので、お客さんが芸人さん達のお笑いコンテンツをスマホやパソコンなどで手軽に楽しめるプロジェクトですね。そこで僕が書いたコピーは『合言葉は、「手洗い、うがい、笑い」』でした。今という同じ時間を、ともに笑顔で過ごせたらという思いから書いたコピーでした。
――これから世界はどう変わっていくと思いますか?
阿部 不安ですよね。人と人とが近い距離で会うことに心のどこかで怖さを感じる時代になってしまいました。でもきっと事態は収束するはずです。だから「未来の待ち合わせ」をつくりたいなと。会いに行きたい人を増やしていきたいです。これまでやっていたリアルな場での講座は延期にしましたが、オンラインにすればできます。むしろ地方でも参加できるというメリットもある。気持ちのつながりを大切にしながらオンラインで開催し、コロナが収束した先にはそこで出会った人たちに実際に会いに行くようにしたいですね。