――私たちが受けてきた「美術」の授業は、まさに知識や技術が中心で、「いい作品をつくる」のが当たり前だと思っていたのですが、末永さんが感じた“違和感”とは、具体的にどういうものなのでしょうか?

末永 きっとどの学校でも似たようなところがあると思いますが、学校全体の風潮として、いわゆる主要5教科よりも美術の重要性は「ちょっと低い」という感覚を、生徒も、教員も持っているような気がします。

 将来「美術に直接関わる仕事」に就く人は少ないでしょうから、「美術の技術や知識」だけで言ったら、5教科の知識よりも重要度は低いかもしれません。でも、だからこそ「美術を通して何を学ぶのか」を考えることがとても大事だなと。

――「美術を学ぶ」ではなく「美術を通して学ぶ」に考え方を切り替えたわけですね。

末永 まさにそうです。「美術教育」そのものを考えたとき、小学校や中学校は専門教育ではなく、普通教育なんですよね。高校へ行くと一部には専門教育としてやっているところもありますけど、普通科の高校であれば、やっぱり美術は普通教育です。

 専門教育であれば、デッサン力とか、何かを作り上げるスキルを磨くなど、技術を教える必要もありますが、普通教育ではいったい何を学ぶことが大事なんだろう、と。

 美術を通して、その先にある「本質的なもの」を学ぶ。もう少し具体的に言えば、「ものの見方」を広げる、とか、「自分なりの答え」をつくる――それが大事だと私は思っているんです。現場ではけっこう忘れられがちですが、それがもともとの普通教育として美術を学ぶ意味だったのではないかなと。

なぜ中高生向けの「美術」の授業で、「自分なりの答えを見つける力」が育つのか?

――なるほど。美術の授業に、そんな本質的な意味や目的があったとは考えもしませんでした。

末永 これは私個人の意見というわけではなくて、学習指導要領とか、大学の専門的な教育機関などではかなり前から考えられていることで、本来的な意味では、これがスタンダードなんです。

 でも、それが学校現場にはなかなか浸透していかない。どうしても多くの人が中高生のときに受けたような、従来型の「技術や知識に偏った授業」がまだまだ行われています。

 こうした現状に対する違和感こそが、「自分の授業を変えてみよう」と思ったいちばんのきっかけです。