本質的な問いに向き合った
20世紀のアーティストたち
――『13歳のアート思考』では20世紀のアート作品が6つ取り上げられています。美術作品というと、18世紀や19世紀の名作も多いと思うのですが、あえて20世紀のものを取り上げたのは、何か意図があるんですか?
末永 おっしゃるとおり、18世紀とか19世紀にもおもしろい美術作品はたくさんあるし、21世紀にだってあるんですけど、アートの歴史を見たときに、20世紀というのはアーティストたちが「アートって一体なんだろう?」という本質的な問いに立ち返って考えはじめた特別な時代だったと思います。「表現の花」だけではなくて、自身の「興味のタネ」から「探究の根」の部分にフォーカスしはじめた。それが20世紀アートの特徴です。
たとえば、この本ではピカソの《アビニヨンの娘たち》を取り上げて、「リアルってなんだろう?」というテーマの話をしています。ピカソのあの作品を観て「すごくリアルだ」と感じる人はほとんどいないでしょう。でも、だからこそ「リアルってなんだろう?」「アートってなんだろう?」と考えさせることができます。
――有名なピカソの絵を見ると、たしかに「リアル」だとは感じません。どうして、ピカソはそんな絵を描くようになったのでしょうか?
末永 たとえば、20世紀にはカメラが普及していて、ただ“見たまま”を写すだけなら、写真のほうが断然いいですよね。
そういう時代背景のなかで、アーティストたちは先ほどあげたような問いについて考えはじめました。文字どおり「アート思考」が推し進められてきた時代だったわけですね。そうやって、どんどん探究プロセスが更新されていくおもしろさが20世紀のアートにはあります。
じつは私自身、この本のなかでいちばん気に入っているのは、この「リアルさってなんだ?」という章ですね。
私は美大を出ていて、その前には予備校でデッサンの練習をさんざんしてきたのですが、その練習をしているときとか、あるいは、自分の絵を描いているときにも、ずっと感じていた疑問や葛藤に通じるものがあったからだと思います。「リアルって、いったいなんだろう」というテーマについて考えたり、調べたりしていくのはいちばん楽しかったです。