カレーハウスからのカレーなる転身

宗次:高校に入学してから、同じクラスにいたお豆腐屋さんの息子に頼んで、毎朝、アルバイトをさせてもらいました。
高校1年生の6月のある日、別の同級生から「テープレコーダーを買わないか」と声をかけられて、「1000円の5回払いだったら買いたい」と言って譲り受けたんです。
部活が終わってから、母親の待つ六畳一間のアパートに帰って、さっそく歌謡曲を録音しようと思いました。ところが、テレビをつけても歌謡曲は流れていなかったので、その代わりに、「NHK交響楽団」が演奏していたクラシックを録音してみたんです。

翌日の朝早く目が覚めて、昨日録音した音楽を聴いてみることにしました。1曲目はすぐに終わって、2曲目に流れてきたのがメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。その曲がきっかけで、クラシックが好きになりました。
翌週から毎週、クラシックの演奏を録音するようになって、それをずっと聴くようになったんです。

山下:宗次ホール(編集部注:宗次徳二氏によってつくられたクラシック専門のコンサートホール。2007年に開館)が開館して13年が経ちますね。「暮らしの中にクラシック」というキャッチフレーズがとても印象的です。
私もクラシック音楽を勧められて聴くようになりました。クラシック音楽に触れるようになって、私の心持ちも変わってきた気がします。優しい気持ちになれるというか……。

宗次:他のジャンルにも楽しい音楽はたくさんあります。身体中から元気が湧き出るような音楽とか。ただ、クラシックは穏やかになれるという点が、他のジャンルとは違うかなと思います。たとえば、朝起きたらクラシック音楽が流れてくるような、日常にクラシックがある生活もいいのではないかという思いで、「暮らしの中にクラシック」という標語を掲げてコンサートホールを開館しました。

山下:宗次さんは、クラシック音楽を通して社会貢献を続けていらっしゃいます。ご自身の壮絶な経験を経て、小中学校への吹奏楽器の寄付なども積極的にされている姿には、本当に尊敬の念しかありません。

宗次:カレーハウスからのカレーなる転身ですね(笑)。

(第4回に続く)