会社は「教師」の宝庫である

 そして、ありがたいことに、会社は「教師」の宝庫です。

 営業部門、技術部門、製造部門、開発部門、財務部門、管理・総務部門など、すぐ近くに、それぞれの領域で現実に仕事を動かしている専門家集団がいるのです。「知識」を身につけたければ、彼らのもとを訪れて、教えを請えばいいのです。

 私は、入社1年目からそれを実行しました。

 新入社員研修で講義をしてくれた方々が、「わからないことがあったら、いつでも聞きにきなさい」と言ってくれたのを“これ幸い”と、研修の復習をかねて各部門の担当者に会いに行ったのです。いざ会いに行くと、みなさん「本当に来たのか?」と驚きました。「いつでも聞きにきなさい」という言葉は社交辞令のようなもので、本当に聞きに来るのはそんなにいなかったのです。

 でも、「わからないことがありまして……」と質問をすると、みなさん嬉々としていろいろなことを教えてくださいました。

 これは、その後、私が教える側に立ってから実感したことですが、教えを請われて嫌な気がする人はいません。人に頼られるのは嬉しいことですから、「教えてほしい」と言ってくる人には、誰だって好感をもつのです。しかも、当時の私は入社1年目。ずいぶんとみなさんに可愛がっていただいたものです。

教科書には書かれない、
奥深い「知識」が現場にはある

 しかも、彼らが教えてくれるのは、どんな教科書を読んでも書いていない、生々しい「知識」ばかり(「知恵」というのがふさわしいかもしれません)。教科書に書いてあることだけでは、現実の仕事は回らない。そこには、実に奥深い世界が広がっていたのです。

 好奇心を刺激された私は、その後も、何かわからないことにぶつかるたびに、足繁くいろいろな部署に顔を出すようになりました。そして、次第に、「そうか、ブリヂストンという会社は、この人がいるこの部署が、このような役割を果たして回っているんだ」ということが実感を伴って理解できるようになってきました。

 当初は、抽象的な組織図のイメージしかなかった会社という「機関」が、生身の人間が協力しあいながら、せっせと動かしている「有機体」であることがイメージできるようになっていったのです。

 そして、自分が担当している仕事が、会社全体のなかでどういう意味があるのかも深く理解できるようになります。私のデスクは1㎡ほどの小さいものですが、そこで行う仕事は「有機体」全体につながっている。そのようなイメージが明確になることで、仕事はおもしろくなり、自分がどう仕事を進めるべきなのかも見えてくるようになりました。その結果、仕事の質が高まり、職場での評価も高まったように思います。