なぜならば、マスクで顔の下半分が覆われた状況でコミュニケーションをする場合、声が聞こえづらい、表情がわかりづらい、気持ちが伝わらいづらいからだ。声量の問題で語尾が伝わりづらいと、深刻な誤解を招きかねない。肯定しているのか、否定しているのか、指示なのか、相談なのか、語尾の述語が聞き取れずに、結論を読み違いしてしまいがちになるからだ。

 また、表情が伝わりづらいと、その人が喜んで話しているのか、困って話しているのか、敬遠しているのか、親近感をもっているのか、途端にわかりづらくなる。その結果、相手の気持ちがわからない、真意がわからないという状況に陥ってしまう。最近はリモートでビジネススキルを向上させる演習をしているが、参加者からこのような声が寄せられる。

 Zoomなどリモートでの演習参加者は、オフィスから参加する場合、たいていマスクを着用したままだ。会議室から参加している人もいるが、会議室でもマスク着用を義務づけられているという人もいる。一方、自宅からアクセスしている人でマスクを着用している人はいない。

 自宅からリモートで対話している分には、マスクをしていないので、コミュニケーションやエンゲージメントに影響はないと思うかもしれないが、これが大ありだ。対面の三次元と、リモートの二次元では、伝えられる情報、伝わる情報が大きく異なる。加えて、通常は、顔だけを写してリモートでの対話や会議を行うわけだが、顔だけしか見せない、見えない状況では、対面の場合に加えて、コミュニケーションに使える部位が限られているということになる。

マスク着用、リモートでも
円滑にコミュニケーションを取るには?

 このように申し上げると、たいてい、「今はまだ非常時だから、コミュニケーションレベルの低下を気にしてはいられない」「マスク着用をするなとは言えない状況なので、エンゲージメントが劣化してもしょうがない」という意味の返答が返ってくる。

 しかし、こうしたコミュニケーションがうまくいかない状態を放置しておくと、ビジネスでは相手を巻き込めなくなってしまい、あっという間にチームのパフォーマンスが下がっていたということになりかねない。

 このように申し上げると、マスク着用やリモートの状況で、コミュニケーションやエンゲージメントの低下を防ぐ方法などあるのだろうかという声が挙がる。なにも難しく考えることはない。マスク着用時であれば、「顔の上半分」の表現力に着目すればよい。アイコンタクトの長さを短めにしたり、アイコンタクトをはずす方向を下にうなずくようにしたりするだけで、表現力は格段に高まる。マスク着用時は顔の上半分が強調される。普通に見ているつもりでも相手からは、にらんでいるように誤解されがちだからだ。