天才数学者たちの知性の煌めき、絵画や音楽などの背景にある芸術性、AIやビッグデータを支える有用性…。とても美しくて、あまりにも深遠で、ものすごく役に立つ学問である数学の魅力を、身近な話題を導入に、語りかけるような文章、丁寧な説明で解き明かす数学エッセイ『とてつもない数学』が6月4日に発刊。発売4日で1万部の大増刷、その後も増刷が続いている。
「人気の数学塾塾長が数学の奥深さと美しさ、社会への影響力などを数学愛たっぷりにつづる。読みやすく編集され、数学の扉が開くきっかけになるかもしれない」(朝日新聞2020/7/25掲載)、佐藤優氏「永野裕之著『とてつもない数学』は、粉飾決算を見抜く力を付ける上でも有効だ」(「週刊ダイヤモンド2020/7/18号」)、教育系YouTuberヨビノリたくみ氏「色々な角度から『数学の美しさ』を実感できる一冊!!」と絶賛されている。今回は「黄金比」をテーマに、著者が書き下ろした原稿を掲載。連載のバックナンバーはこちらから。
黄金比はスゴい
黄金比は、紀元前440年頃にギリシャの彫刻家であり建築家であったペイディアス(紀元前490年頃―紀元前430年頃)が、かのパルテノン神殿を設計した際に初めて使ったと言われている。
黄金比をギリシャ文字の「φ(ファイ)」で表すことがあるのは、ペイディアスの頭文字にちなんでいる。
「黄金比」とは、正五角形の一辺と対角線の長さの比のことだ。たとえば、名刺やクレジットカードなどの長方形の縦と横の比は、人が自然とバランスの良さを感じると言われている「黄金比」になっている。
黄金比の値は1:1.618…[正確には(1+√5)/2]であり、正確な値は√を含むため分かりづらいが、約5:8だと思ってもらって(少なくとも日常的には)問題ない。
また、黄金比は一本の線分を長い部分と短い部分にわけたとき、「長い部分:短い部分」が「全体:長い部分」に一致するときの比でもある。これついては古代ギリシャのユークリッド(紀元前330頃~紀元前260頃)も『原論』の中で「極端に切り込んで中庸とする」という言い方で触れている(日本語では外中比とも言う)。「中庸」というのは、ちょうどよくバランスが良い、という意味であろう。
ちなみに、文献上で「黄金比」という名称が使われたのは、1835年にドイツで刊行された「初等純粋数学」という書籍が最初である。
エジプトのギザの第一ピラミッドは、平均2.5トンもの巨大な石が約230万個も積み上げられているのだが、このピラミッドは一辺230mの正方形を底面とする高さ146mの四角錐になっている。この230:146はほぼ黄金比に一致する。
古代ギリシャの彫刻ミロのヴィーナスは足元からへそまでの長さと、足元から頭頂までの長さなど色々な部分の比が黄金比になるように作られている。同じく男性のスーツも、「肩幅:肩から上着の裾」や「頭頂からウエスト:ウエストからズボンの裾」などの比が黄金比になるように着こなすとスマートに見える。