教育レベルと収入が高い人ほど
トンデモ医療を信じる傾向がある

――本を読んでさらに驚いたのは、教育レベルと収入が高い人ほど、トンデモ医療を信じる傾向がある(注5)ということです。

注5 Johnson SB, Park HS, Gross CP, Yu JB (2018) “Use of Alternative Medicine for Cancer and Its Impact on Survival,” J Natl Cancer Inst; 110(1), 121-4.

勝俣 教育レベルと収入が高い人ほど、「自分はたくさん調べているから大丈夫だ」、「知識はあるから自分で判断できる」と思ってしまう傾向があります。本やインターネットを調べていくうちに、間違った情報やがん経験者の極端な体験談にどんどん触れてしまい、次第にトンデモ医療を受け入れてしまうのです。

 逆に、自分は何もわからないし、お金もないから、医師のアドバイスに従うしかないと思っている人は、保険適用で標準治療を受ける人が多いです。標準医療を受けた患者さんと、代替医療のみを受けた患者さんを比較したら、代替医療を受けた患者さんのほうが生存率が低いというデータも出ていますからね(注5、図表1)。

あやしいがん治療が日本でなくならない理由図表1 標準治療を受けた患者と代替療法のみを受けた患者の生存率の比較
出典:注5より筆者ら作成

――では、本で紹介されている標準治療の、「がんを摘出する手術」、「放射線治療」、「抗がん剤治療」の三大治療さえしっかり受ければいいと?

勝俣 基本的にはそうなんですが、知っておいてほしいのは、これらの三大治療を受ければ、必ず治るということではありません。最善の治療が三大治療というわけです。また、治す治療には限界もあるということです。

 しかし今では、治すことは難しくとも、共存できる時代になっています。緩和ケアも標準治療の一つであることは、あまり知られていません。一部のがんには、延命効果も示されています(注6)。また、緩和ケアは、患者さんの生活の質を高めるためには必須の療法です。緩和ケアを受けながら、がんとうまく付き合い、うまく共存を目指し、正しく向き合ってほしいと思います。

注6 Temel JS, Greer JA, Muzikansky A, Gallagher ER, Admane S, Jackson VA, Dahlin CM, Blinderman CD, Jacobsen J, Pirl WF, Billings JA, Lynch TJ (2010), “Early palliative care for patients with metastatic non-small-cell lung cancer,” N Engl J Med; 363(8): 733-42.

トンデモ医療を見分けるには
どうしたらいいか

――なぜ日本には、専門的な正しい知識を発信する人が少ないのでしょうか。

勝俣 一般の方向けに専門的な知識をわかりやすく伝えるのが、非常に難しいからです。医療の世界では、「こうすれば治る」「この治療法で大丈夫」と簡単に言い切れない、不確定な要素が多いんです。専門医は、情報発信のプロではないですから、わかりやすく伝えるのは難しいことなんですね。

 がん治療は、まだまだ難しく不確実なことも多いので、一般の方やがん患者さんが不安を募らせるのも無理はありません。そういった際には、耳に優しく聞こえる安易な「こうすれば治る」「〇〇治療で必ずよくなる」といった情報には少し慎重になるべきだと思います。

 あと、信頼できる情報源かどうかを確認することが重要です。人の口コミ情報などは、それがたとえどこかの大学教授が言ったことであったとしても、特定の個人による言葉だけでは、信頼性は乏しいです。国立がんセンターなどの公的機関の発信する情報や、学会の発信するガイドラインなどの情報を確認するのがよいと思います。

――では、日本で正しいがん情報を入手したいときは、本で紹介されている国立がん研究センターの「がん情報サービス」(注7)をはじめとした情報源を確認すればいいわけですね。

注7 国立がん研究センター「がん情報サービス」
https://ganjoho.jp/public/index.html

勝俣 基本的にはそうです。『最高のがん治療』で紹介している情報源はどれも、がん治療について科学的根拠にもとづいた解説をしています。

 インターネットにはよく、「私は〇〇を飲んだらがんが良くなった」などの、個人の体験談が載せられているのを見かけます。こうした口コミ情報や体験談の情報には注意が必要です。がんの種類やタイプ、治り方はそれこそ千差万別で、人それぞれです。

 個人の体験談というのは、本当にその治療法に効果があったかどうかは、厳密にはわかりません。その治療をやらなくても自然によくなったかもしれないし、他のがんの治療と併用していてその効果なのかもしれない。「効果があった」という事実がそもそもでまかせだった可能性もある。本当に効果があったかどうかを証明するには、個人の体験談レベルというのは非常に科学的な信頼性が低いということなんです。

 一方、「標準治療」で使われている抗がん剤は、厳しく評価する臨床試験を何段階も重ねます。最後には、新治療とこれまでの標準治療とをランダムに割り付けて、長期間の効果を第三者が厳密に評価する臨床試験(臨床第三相試験、ランダム化比較試験とも言います)によって、効果が正確に評価されたものしか使われません。その違いをぜひ知っておいてほしいと思います。

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第1回 あやしいがん治療が日本でなくならない理由
第2回 腫瘍内科医に聞いた「あやしいがん情報」にだまされない6つのポイント
第3回 「ストレスが原因でがんになる」のエビデンスは乏しい
第4回 がん検診もPCR検査も「早期発見」が本当の目的なのではない

あやしいがん治療が日本でなくならない理由