事業家(CXO)に必要なのは
俯瞰力、大局観、ストーリー設計力、横断的知識
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役社長
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動する。日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。日本とシリコンバレーのスタートアップ数社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めながら、ウェブマーケティング会社ベーシックのCSOも務める。2017年、スタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。著書に『起業の科学』(日経BP)、『御社の新規 事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)がある。
「スタートアップの成功は、経営陣が全ての鍵を握っている」というのが、私が起業家の皆さんにお伝えしたい結論だ。
さらに言うと、「経営陣が起業家から事業家(CXO)になれるかが成功のキーになる」ということだ。
ここで言っている事業家/CXOの定義について説明しよう。
CXOのCはChief(長やリーダー)、OはOfficer(役員)を表す。真ん中のXは、それぞれの専門性に応じた職能を指す。例えば、代表的なものにCEO(Chief Executive Officer:最高経営責任者)やCOO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)、CFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)やCTO(Chief Technical Officer:最高技術責任者)などがある。
従来なら、CTO(最高技術責任者)は「製品開発」だけ、CFO(最高財務責任者)は「ファイナンス」だけを見て部分最適化ができれば、自らの職務を果たしたことになるだろう。
しかし、本連載で提唱する「スタートアップCXO」になる人材は、この「専門性」だけでは不十分だ(各自の専門性は必要条件だが、十分条件ではないからだ)。
外部環境や内部環境が激しく変わるスタートアップにおいては、各機能に「部分最適化」された意思決定やディレクションしかできないのは「エセ CXO」でしかない。
「エセ CXO」は組織を間違った方向に導いてしまう。
しかし、「スタートアップCXO」は部署やファンクションをまたいで、俯瞰的かつ大局的に事業を把握し、必要なリソースを配分し、かつディレクションする力を持つ人材だ。
さらに各要素を理解するだけでなく、それぞれを有機的に結合し、「自社の唯一無二のストーリー」を描けることが理想だ。これを私は「ストーリー設計力」と呼んでいる。
そして、俯瞰力、大局観、ストーリー設計力に加えて、経営に関する重要な要因の本質を理解し、アクションに落とし込むことができる「横断的知識」も重要になる。
この「俯瞰力」「大局観」「ストーリー設計力」「横断的知識」の4つを持つことが、スタートアップを成長させるCXOには、必要不可欠なケイパビリティ(能力)だと考えている。
ある程度できあがった組織や企業において事業を再生させたり、もう一度成長軸に乗せたりする従来型のCXOの価値は希少なものである。
しかし、スタートアップを成長させる文脈においては、従来型のCXOは、必ずしもフィットしないのが事実だ。
本連載は、スタートアップで働いているメンバーは、必読だと言える。
優れた組織に共通する特徴として、メンバーが一つないし二つ上の役職の目線を持っているということが言える(つまり、担当者ならマネジャー、マネジャーなら役員、役員なら代表取締役)。
現時点で、経営からは遠いポジションにいたとしても、本連載を通じて、「経営陣もしくは代表取締役だったら、自分はどう意思決定をするか」という問いを自らに投げかけていただきたい。