単なる「優秀な部下」にとどまるか、「参謀」として認められるかーー。これは、ビジネスパーソンのキャリアを大きく分けるポイントです。では、トップが「参謀」として評価する基準は何なのか? それを、世界No.1企業であるブリヂストン元CEOの荒川詔四氏にまとめていただいたのが、『参謀の思考法』(ダイヤモンド社)。ご自身が40代で社長の「参謀役」を務め、アメリカ名門企業「ファイアストン」の買収という一大事業に深く関わったほか、タイ法人、ヨーロッパ法人、そして本社CEOとして参謀を求めた経験を踏まえた、超実践的な「参謀論」です。本連載では、本書から抜粋しながら、「参謀」として認められ、キャリアを切り開くうえで、欠かすことのできない「考え方」「スタンス」をお伝えしてまいります。

賢い人とは、「頭の回転」の速い人ではなく、ブレない「思考の軸」を鍛えた人である。

「原理原則」こそが、
最強の思考ツールである

 自分の頭で考える――。

 これが、参謀の基本です。

 意思決定者であるリーダーの指示を、そのまま受け入れるのではなく、自分の頭で、その意図や真意、背景などを吟味し、必要であればしっかりとリーダーと議論をして、十分に腹落ちできるまで考え抜く(連載第18回参照)。そして、もしも、リーダーの指示に疑義があるならば、それを率直に指摘する。この思考プロセスがなければ、参謀としての役割を果たすことはできません。

 では、「自分の頭で考える」とはどういうことでしょうか?

 これは、いろいろな角度から論じることができるテーマではありますが、私が、最も重視してきたのは、「原理原則」を軸に考えるということです。私が思うに、人間は、何らかの「尺度」をもたずにモノを考えることはできません。なんらかの「尺度」と照らし合わせることで、「これは正しいことか?」「どうすべきか?」といった思考を正しく機能させることができるのです。そして、その最も重要な尺度が「原理原則」だと思うのです。

「原理原則」とは、決して小難しいものではありません。

「生命を大切にする」「環境を大切にする」「ウソをつかない」「ルールを守る」「高い品質を保証する」など、小学生にもわかる当たり前のことです。しかし、この「当たり前」の尺度を軸にモノを考えることさえ徹底すれば、どんなに複雑な状況に置かれ、さまざまな意見が錯綜するなかであっても、間違った判断を遠ざけることができます。「原理原則」こそが、最強の思考ツールだと思うのです。

賢い人とは、「頭の回転」の速い人ではなく、ブレない「思考の軸」を鍛えた人である。荒川詔四(あらかわ・しょうし)
世界最大のタイヤメーカー株式会社ブリヂストン元代表取締役社長
1944年山形県生まれ。東京外国語大学外国語学部インドシナ語学科卒業後、ブリヂストンタイヤ(のちにブリヂストン)入社。タイ、中近東、中国、ヨーロッパなどでキャリアを積むなど、海外事業に多大な貢献をする。40代で現場の課長職についていたころ、突如、社長直属の秘書課長を拝命。アメリカの国民的企業ファイアストンの買収・経営統合を進める社長の「参謀役」として、その実務を全面的にサポートする。その後、タイ現地法人社長、ヨーロッパ現地法人社長、本社副社長などを経て、同社がフランスのミシュランを抜いて世界トップの地位を奪還した翌年、2006年に本社社長に就任。世界約14万人の従業員を率い、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災などの危機をくぐりぬけ、世界ナンバーワン企業としての基盤を築く。2012年3月に会長就任。2013年3月に相談役に退いた。キリンホールディングス株式会社社外取締役、日本経済新聞社社外監査役などを歴任。著書に『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)がある。