私たちが作ったのは「クイックちゃん」。社内のマッサージルームで使用するスキルだ(Amazon Alexaでは開発したプログラムのことをスキルと言う)。

 社内のマッサージルームは何年も前からあり、肩こりに悩むエンジニアたちに重宝されていた。マッサージャー(マッサージをする人)は目の不自由な方だったので、予約台帳の確認や次の人への連絡、不足した備品の発注などを円滑に行うために、バックオフィス系のスタッフがローテーションを組んで運営をサポートしていた。

 マッサージャーは、「サポートはとてもありがたいが、仕事はなんとかひとりでできないものかねぇ」と言う。ここから「クイックちゃん」開発プロジェクトが始まった。

 Amazon Echoに「Alexa、クイックちゃんで次の人を呼んで」と話しかけると、クラウド上の予約台帳をもとに、次の人にSlackやSkypeで通知が送られる。備品の発注についても同様で、声で指示を出すと内容を確認したうえで発注してくれる。

 目で見ることができず、マッサージで手もふさがっている。残されたものは「声」しかない。だからスマートスピーカーを使う必然性があったのだ。

「クイックちゃん」の導入で、ローテーションでサポートについていた人の労働時間が192時間削減され、マッサージの施術の回転数が22%上がった。

 そして何よりも嬉しかったのは、マッサージャーが「自立して業務をこなせるようになり達成感と自信につながった」と言ってくれたことだった。

 私は社員に「これから来そうだという技術は習得しておき、使うべきときが来るまでは無理して使わないように」という指示を徹底している。こう言い続けないと、技術濫用の罠に陥ってしまうからだ。

 失敗談を紹介しよう。ビジネスデータの可視化について調査していたチームが、「社員の出身地について日本地図上で分布を表示したい」と言うので、「まあ、やってみたら」と軽く答えた。

 社員の入社や退職はさほど頻繁に発生しないので、更新される日本地図は、超難易度の間違い探しのようになってしまった。加えて、その地図データから発見や気づきは何も得られなかった。こうならないように、「使うべきときのみに技術を使おう」と日ごろから周知徹底しておく必要があるのだ。