「中立的立場」を保つために、
絶対に忘れてはならないこと

 そもそも、参謀は、あくまで社長をサポートする存在であって、政治的な駆け引きを行う主体ではありません。

 政治家と官僚の関係をイメージするといいでしょう。政治を行うのは政治家であり、政治家の意思決定に従って業務を執行するのが官僚です。官僚は非党派的であるべきであり、誰が政治家になっても、その仕事をサポートするプロフェッショナルでなければなりません。

 参謀も同じで、もしも、不健全な社内政治が巻き起こったとしても、それに対処する主体は社長をはじめ経営層であって、参謀は、そのような立場にはありません。政治に積極的にかかわろうとするのではなく、どこまでも、組織人としての「原理原則」に徹するべきなのです。

 組織人としての「原理原則」とは、「組織の一員として常にその仕事の本質を考えながら、前向きで健全な行動をする」ということ。参謀の場合は、上司を「機関」として捉え、その「機関」が健全に、効率的に稼働するようにサポートするのが仕事。重要なのは、上司が誰であっても、その「機関」を全力でサポートするのが参謀である、ということ。このスタンスを、常に明示しておく必要があるのです。

 そして、参謀が判断をするときには、「政治」を軸にするのではなく、「原理原則」を軸にしなければなりません。

 たとえば、社長に敵対する派閥からなんらかの提案が参謀に持ち込まれた場合でも、それが会社の未来に資するものであれば、社長にその提案を採用するように進言するべきでしょう。そのような場面で、政治的な配慮などを挟むのはご法度。「誰」が提案したかではなく、「何」が提案されているかだけを、参謀は見るべきなのです。

 そのようなスタンスを誠実に徹底していれば、対立する派閥からも、「あいつはフェアな人間」だと認識してもらえるはずです。少なくとも、相手の「敵対感情」をエスカレートさせるような事態を防ぐことができるでしょう。

 私は、これこそ「中立的立場」というものだと思います。

 社内に存在する派閥の「中間」を取るのが、「中立的立場」ではありません。

 組織人としての「原理原則」に忠実に従うことこそが、真の「中立的立場」をつくり出すのです。それが、政治的に微妙な立場に置かれる参謀が、自分の身を守る鉄則なのです。

会社で“ヤバい立場”に陥らないために、絶対にやっておくべきこと荒川詔四(あらかわ・しょうし)
世界最大のタイヤメーカー株式会社ブリヂストン元代表取締役社長
1944年山形県生まれ。東京外国語大学外国語学部インドシナ語学科卒業後、ブリヂストンタイヤ(のちにブリヂストン)入社。タイ、中近東、中国、ヨーロッパなどでキャリアを積むなど、海外事業に多大な貢献をする。40代で現場の課長職についていたころ、突如、社長直属の秘書課長を拝命。アメリカの国民的企業ファイアストンの買収・経営統合を進める社長の「参謀役」として、その実務を全面的にサポートする。その後、タイ現地法人社長、ヨーロッパ現地法人社長、本社副社長などを経て、同社がフランスのミシュランを抜いて世界トップの地位を奪還した翌年、2006年に本社社長に就任。世界約14万人の従業員を率い、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災などの危機をくぐりぬけ、世界ナンバーワン企業としての基盤を築く。2012年3月に会長就任。2013年3月に相談役に退いた。キリンホールディングス株式会社社外取締役、日本経済新聞社社外監査役などを歴任。著書に『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)がある。