『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』5万部のベストセラーとなっている、ADHD(注意欠如・多動症)当事者の借金玉さん。まだ34歳だが、その生い立ちは「ジェットコースター」という言葉がぴったりの、波乱万丈な内容だ。
発達障害を誰にも理解してもらえないまま、不登校を繰り返してきた小中高校時代。「このままじゃヤバい」と一念奮起して早稲田大学に進学し、大手金融機関への就職を果たした大逆転時代。しかし結局「普通」の仕事がまったくできずに退職し、起業にも失敗した「うつの底」時代……。
30歳の頃には、死ぬことばかり考えて「毎日飛び降りるビルを探していた」借金玉さんが、どん底から脱することができた理由。それは、生活、そして人生を立て直す「再起」のテクニックをひとつずつ身につけていったからだった。
本書を通じて借金玉さんが最も伝えたかったこと──「休息」そして「生きる」をテーマに話を聞いた。
(取材・構成/樺山美夏、撮影/疋田千里)

発達障害の僕が伝えたい「意識高い系」の人が人生から転落する危うさ

人生で最も重要なスケジュールは「休息」

――「あたりまえ」や「普通」のことができないのは、発達障害と診断されていない人にもよくあることだと思います。本書に出てくる「いつも何かを探している人生」、「在宅ワークで“働く”と“休む”の境界線が消え去る」は、私のことかと思いました。47のサバイバル術のうち、借金玉さんが特に大事だと思うもの、誰にとっても生きていくうえで不可欠なものはありますか?

借金玉 Chapter7の「休息」ですね。今まで何度も述べてきたことですが、人生においてもっとも重要なスケジュールは問答無用で休息です。

「“頑張る”は惰性、“休む”は意志の賜物」って僕はよく言うんですが、実は、休むという行為には、非常に強い意志が必要なんです。人間は、「休む」か「頑張る」かなら、「頑張る」という決断を好む生き物だからです。

 これには、Chapter8の「うつ」もかかわってきます。休息を疎かにすれば、誰でもうつになる可能性は高くなりますからね。ただ、この本に載っているのはあくまで「うつから再起できるところまで回復した人」のためのハックです。「うつの底」にいる人は、僕の本もこのインタビューも読まないで、とにかく「何もしないで寝る」ことを最優先してください。

――借金玉さんご自身も、無理をしてしまった苦い経験はあるんですか?

借金玉 うつの人って、なぜか最後の力を振り絞って勉強や仕事をがんばろうとするんですよ。僕も、起業した会社が破綻して2000万円の借金を抱えて、無職で……。双極性障害が悪化し「うつの底」に沈んでいたとき、とりあえず何かしなきゃと宅建士の資格を取ろうとしたことがありました。「僕だってそれなりの大学を出ているし、ちょっとがんばればすぐ取れるだろう!」と思って勉強をはじめたんですが、参考書の内容が、1ミリも頭に入ってこなかったんです。あのときは本当に「もうダメだ」と思ってわんわん泣きました。

発達障害の僕が伝えたい「意識高い系」の人が人生から転落する危うさ借金玉(しゃっきんだま)
1985年、北海道生まれ。ADHD(注意欠如・多動症)と診断されコンサータを服用して暮らす発達障害者。二次障害に双極性障害。幼少期から社会適応がまるでできず、小学校、中学校と不登校をくりかえし、高校は落第寸前で卒業。極貧シェアハウス生活を経て、早稲田大学に入学。卒業後、大手金融機関に就職するが、何ひとつ仕事ができず2年で退職。その後、かき集めた出資金を元手に一発逆転を狙って飲食業界で起業、貿易事業等に進出し経営を多角化。一時は従業員が10人ほどまで拡大し波に乗るも、いろいろなつらいことがあって事業破綻。2000万円の借金を抱える。飛び降りるためのビルを探すなどの日々を送ったが、1年かけて「うつの底」からはい出し、非正規雇用の不動産営業マンとして働き始める。現在は、不動産営業とライター・作家業をかけ持ちする。最新刊は『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』

有能だった友人が「もう何もできません」と書き遺して死んだ

 そのとき、うつで自殺してしまったある友人のことを思い出したんです。その友人は、勉強も仕事も優秀で、いろんなことをバリバリやっていた有能な奴だったんですが、うつになって思うように動けなくなってしまって。

 それからは、何をやっても失敗に終わったので、ハローワークを頼って、就労支援の講座に通いはじめたんですね。ところが、その勉強も何ひとつ頭に入らないことに気づいたみたいなんです。

 自分を恥じるように、「もう何もできません」と書き遺して自殺してしまいました。

 今まで、知り合いが何人も自殺しましたけど、まだ20代半ばだったその友人が自殺したときほど残念に思ったことはありません。彼の場合は追い詰められたときに思考が停止するうつ病の典型的な症状で、ちゃんと休んで薬を飲めば止められたはずの自殺だったからです。だから僕は、宅建の勉強がまったく頭に入ってこなくて愕然としたときに、「ああ、アイツもこうなったのか」とその友人のことを思い出しました。

 今でも、なんであのとき宅建なんか取ろうとしたのかまったく思い出せないんですよね。ただただ憔悴しきっていた記憶しかなくて。それから、とにかく生きていくには休息が一番大事だと自覚するようになりました。