累計著作数100冊以上、「本は書き放題」と語る理由

──本で読んだことを次に生かしたい、アウトプットにつなげたい、と思ったとき、どのような読み方をすれば良いのでしょうか。

橋爪 問題を見つけていないのに、本を読みまくっても、アウトプットは出てこない。「問題を見つけている」ということが、とても大事なんです。

 自分が困っている、もしくは、誰かが困っている──このままじゃ生きていきにくいという「問題」を見つけることですね。

 本のネットワークというのは、実は穴だらけ。今、ある本では考えきれない問題だらけなんだ。ということは、本は書き放題ということだ。

 自分が困っているか、あるいは自分が本当に大事に考えている、大勢の人たちが困っているのでなければ、やる気が湧かないから、筆は動かないよ。

──今回の本の中で、橋爪先生は「宗教を2行にまとめる」という試みをされていらっしゃいます。

 ・キリスト教を信じるとは、つぎのように考えることである
  神が、世界を創造し、人間を造った
  イエス・キリストは、人間を愛し、人間を救う

 ・神道を信じるとは、つぎのように考えることである
  神々から、この世界は生まれた
  神々に感謝して、人間は平和に暮らすべきだ

 (──『死の講義』256~257ページより抜粋)

 「宗教」のような複雑な情報から、あれだけ見事に本質を取り出すには、何かコツがあるのでしょうか。

橋爪 世界は複雑なのです。詳しいことを言えば、キリがない。でも、時間は有限なんですよ。なぜかというと、人間はそのうち死ぬからです。

 死んじゃえば、たいていのことは無意味です。自分が何を持っているか、どういうことを記憶していたか……。自分の人生を含めて、たいていのものは消えちゃいますね。

 相手の頭の中身を覗くわけにはいきませんから、ごく限られたことしか、伝わってこないわけです。身近にいる家族だって、友人だって、コミュニケーションできる時間は限られているでしょう。

 さて、こういうコミュニケーションが限られた忙しい人間社会で、私が誰かに何か言ったとして、どれぐらいの長さのものが聞いてもらえるのかと考えれば……2行だな(笑)。何か関心を持ってもらえたときの情報量って、それくらいなんですよ。

 ただ、本を読みたいという人は、もうちょっと興味を持って付き合ってくれる可能性が高いので、実は家族なんかより、著者と読者のほうが、情報のやりとりはずうっと多いかもしれません。

 でも、このまとまった内容を、そのまま持ち運ぶって無理だ。なぜなら、忘れちゃうからだ。忘れないと、「自分が自分である」ということが壊れてしまうから、人間は忘れるようにできているんですよ。自己防衛ですね。

 その「自己防衛のバリア」を突き破って、相手に「役に立ちますよ、これは」と覚えてもらいたいならば、やっぱり2行とか、それくらい短くしたほうがいい。

 全体が短くなるまでのプロセスは、本の中に書いてある。ただ、結果的に短くなったものについては、持ち運びが便利なように2行にしましょう、というやり方ですね。

――自己防衛のバリアを突き破るって、すごい方法論ですね。

橋爪 相手のためなんですよ。だって、「自己防衛のバリア」を突き破って伝わったものは、相手を変化させると思わない?

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