読んだ本の内容は忘れてもいい!「知の達人」が語る最強の読書術

佐藤優氏絶賛!「よく生きるためには死を知ることが必要だ。」。「死」とは何か。死はかならず、生きている途中にやって来る。それなのに、死について考えることは「やり残した夏休みの宿題」みたいになっている。しかし、世界の大宗教、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教などの一神教はもちろん、仏教、神道、儒教、ヒンドゥー教など、それぞれの宗教は、人間は死んだらどうなるか、についてしっかりした考え方をもっている。
現代の知の達人であり、宗教社会学の第一人者である著者が、各宗教の「死」についての考え方を、鮮やかに説明する『死の講義』が発売直後から話題となっている。コロナの時代の必読書である本書の著者・橋爪大三郎氏の特別インタビューを全5回にわたってお届けする。第1回は、読書の作法について。「宗教」や「死」といった難しいトピックを、本質を残したまま、見事にわかりやすい文章にまとめる橋爪先生はどんなインプットをしているのか。私たちにとっての永遠の課題「読書の悩み」の解決法について話を伺った。
(取材・構成/川代紗生)

忘れることを気にしてもしょうがない

──「本を読んでも知識が身につかない」「すぐに忘れてしまう」といった読書の悩みは、どうすれば解決できるのでしょうか?

橋爪 それは悩まなくていい。本を読んで、忘れる。人間は忘れる動物で、そういうふうにできているんです。本を読んだんだけど、中身を忘れた。これは正常です。悩まなくていい。

 だって、その本を読みたいと思ったから読んだんでしょ。思ったようなことが書いてなかったんですか? 著者の意見に反対だった?

 1ページ目から最後のページまで、大事なところだらけの本なんかないでしょう? 大事なことが書いてあったとしても、ところどころじゃないですか。じゃあ、大事だと思ったところにポストイットして、本棚に戻しておけばいい。次に読むときには、ポストイットのところを読めばいい。

 だから、1回目の読書は全然無駄になっていないんです。人間は忘れるものですから、忘れることを気にしてもしょうがないんですよ。「読んだこと」自体を覚えていさえすればいい。

 もし図書館から借りてきて、本を返しちゃう場合は、読書ノートをつけましょう。

 ・著者名
 ・本の名前
 ・借りた図書館と貸し出し番号
 ・ひと言感想

 これくらいでいいです。感想も、「また読みたい」とか「ダメな本だった」とか、簡単なことでいい。

本のネットワーク構造を理解する

──この世には本がたくさんあります。ありすぎて、どの本を手にとっていいかわからない、ということがよくあると思います。おすすめの「本の選び方」があれば教えてください。

橋爪 まず、「みんなが読んでいる大事そうな本を、手当たり次第に読む」というのが、一番いいと思います。自分の読みたい欲求に従ってね。自分に欠けているところ、穴が開いているところがないように、小説でも、社会科学でも、哲学でも、何でもいいんだけど、みんなが読んでいる大事そうなものをあらかた読む。そこまで手間暇かけるエネルギーがない人は、各分野の入門書を読んでみるのでもいいですよ。

 本というのは、1冊、単独で存在するわけではなく、「ネットワーク」、つまり、網の目なんです。「考え方のレパートリー」なんですね。だから、本のネットワークのうち、大事な本を読めば、みんながどんな考えをするのかは、だいたいわかるんだ。

 本には、本を生み出した、別な本があるんです。本を1冊も読まないで本を書く人はいませんよね。

だから、本のネットワークの構造がわかれば、読むべき本をうまく選ぶことができます。ネットワークの節目になる本を読めばいいわけですね。

具体的な問題は、必ず本をはみ出ている

橋爪 そうして本を読んでいると、今度は自分だけの問題にぶち当たることがあります。つまり、みんなが考えて、言ったり、書いたりしていることでは、納得できないことを見つけてしまった場合だ。

 たとえば、お子さんが難病を持って、生まれてしまったとしましょう。親として、できることは何か? 医学の本を読んだ。ケアの本を読んだ。家族の振る舞いについての本を読んだ。

 さて、だいたいの本を読んだんだけど、それで全部の問題が解決するかというと、そうではない。そこをはみ出る、「私の家」の実態がある。現実は、本に書かれていることからはみ出ていて、解決がつかない。

 具体的な問題は、必ず本をはみ出ているんです。

読んだ本の内容は忘れてもいい!「知の達人」が語る最強の読書術橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう)
1948年生まれ。社会学者。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。大学院大学至善館教授、東京工業大学名誉教授。著書に『はじめての構造主義』『はじめての言語ゲーム』(ともに講談社現代新書)、社会学者・大澤真幸氏との共著に、『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書、新書大賞2012を受賞)などがある。最新刊に『死の講義』(ダイヤモンド社)。

 じゃあ、本を読むのは無駄だったかというと、無駄ではないんだ。本を読んで解決することもたくさんある。たいていのことはカバーされていると思う。ただ、具体的なディテールは、必ず本をはみ出てしまう。

 でも、「はみ出ている部分がどこか」を理解できるのは、本を読んだからだ。自分の問題に集中して、その個別のケースを解決しなきゃいけないという意識を持てるのも、本を読んだからだ。

 だから、本を読んだことは無駄にはならない。そして、そのうちに新しい解決策が見えてくるかもしれない。そしたら、それでその問題は解決する。この新しい問題の解決法が、ほかの人にも役に立つかもしれない。

 そうしたら、メッセージを発信すればいい。今の時代なら、ブログなどで発信すると、みんなの参考になる。「いいね」がいっぱい来たりする。そこで、すごく、みんなが知りたがっている問題だと気がついたら、本にすればいいんだ。