さらに、その内訳を見ればもっと興味深い。病院開設者が3985人なのに対して、診療所開設者が7万473人。つまり、「現状維持」を望む傾向の強い「小さな医院・クリニックの経営者」が大多数を占めているのだ。
そんな「現状維持バイアス」が強く支配している日本医師会と、彼らに選挙で頭の上がらない菅政権が、いくら医療崩壊の危機が叫ばれているからといって、現状を大きく変えてしまう「医療体制の見直し」に着手できるだろうか。
ぶっちゃけ、無理ではないか。
コロナ禍のブラック労働で疲弊する
最前線の医療従事者に目を向けよ
医療に限らず、日本ではこういうことがよくある。迫り来る「危機」を前にして、「変わらなくては」「改革が必要だ」という声だけは上がるが、政治に影響力のある団体がそれを骨抜きにする。弱い立場の人間が苦しみボロボロになっても、「がんばれ、がんばれ」と精神論を唱えるだけで「現状維持」に流れるのだ。
多くの人の犠牲でどうにか「危機」を乗り越えた後も、喉元過ぎればなんとやらで、構造的な問題にはなかなかメスが入らない。だから、またしばらくすると同じような「危機」が再発する。こんな「危機の先送り」を、戦後ずっと繰り返してきている。
低い賃金、低い生産性などはその最たるのものだが、1億2000万人という先進国で2番目に多い人口を生かした「規模の経済」と過去の栄光によって、どうにかうまく誤魔化してきた。しかし、最前線の医療従事者が壮絶なブラック労働を強いられるコロナ禍で、それが通用するとは思えない。
取り返しのつかない事態になる前に、いつまで経っても「改革」を先延ばしにしてしまう、という日本の目を背けたくなる現実に、きちんと向き合うべきではないのか。
(ノンフィクションライター 窪田順生)