若いうちは失敗をおそれずに
大いに間違えるべき

内田:かつてボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の社内で「コンサルタントは、どんなときに仮説を思いついているのか」というアンケートをとったことがあります。

その結果、
「ディスカッション中に思いつく」
「顧客や現場でのインタビュー中あるいはインタビュー後に思いつく」
「突然ひらめく」

などの回答が上位にきました。仮説の立て方に定石はありませんが、現場で考えるのは大事なポイントです。デスクにしがみついているのではなく、実際に現場で、具体的な事実を経験し、観察することで新しい仮説が生まれてきます。

土屋:社員には、仮説→実験→検証を推奨するために失敗してもいいと繰り返し言っています。

もちろん、実験して成果を出す人が一番いいのですが、失敗する人も大歓迎。実験で失敗しても、因果関係の解明が一歩前進したと前向きにとらえています。

ある命題に対して10個の仮説があったとします。その場合、10個の検証実験をしないと結論が出ません。つまり1の失敗は仮説を9個に減らすことに成功したと考えています。

内田:最初は立てた仮説が的外れなものになることも多いのですが、人間は失敗から学べます。なぜ失敗したか、なぜうまくいかなかったかを考え、次はあそこを変えてみよう、今度は別のやり方を取り入れてみようと、試行錯誤しながら進歩していく。若いうちは失敗をおそれずに、大いに間違えることです。

土屋:あるSVが担当している加盟店の業績が伸びない原因について、店長が売れないサイズの製品ばかり仕入れているのではないかという仮説を立てました。

でも、調べてみるとそうではなく、他店と仕入れに大きな偏りはありませんでした。

次に、一部の製品の初回導入セットのサイズ分布に問題があるのではないかという仮説を立てました。すると、その加盟店はマッチョな作業客でなく、スリムな一般客が圧倒的に多いため大きいサイズが余っていることに気づきました。

内田:セット組が間違っているとなると、SVの担当店舗を越えての全社的な問題です。

土屋:自分の担当店の売上を伸ばすために仮説検証したことが、結果として全社的な大きな問題点を見つけることにつながります。

経営や会社の文化の問題につながることがあるので、上司は現場から上がってくる声を大事にしていくべきです。

現場での仮説→実験→検証、そして結果の共有はとても大切だと思います。

内田和成

早稲田大学ビジネススクール教授
東京大学工学部卒、慶應義塾大学経営学修士(MBA)。日本航空を経て、1985年ボストンコンサルティンググループ(BCG)入社。2000年6月から04年12月まで日本代表。09年12月までシニア・アドバイザーを務める。BCG時代はハイテク・情報通信業界、自動車業界幅広い業界で、全社戦略、マーケティング戦略など多岐にわたる分野のコンサルティングを行う。06年4月、早稲田大学院商学研究科教授(現職)。07年4月より早稲田大学ビジネススクール教授。『論点思考』(東洋経済新報社)、『異業種競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『スパークする思考』(角川書店)、『仮説思考』(東洋経済新報社)、『リーダーの戦い方』(日経BP社)など著書多数。
Facebook:https://www.facebook.com/kazuchidaofficial
土屋哲雄(つちや・てつお)
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を本書で初めて公開。本書が初の著書。