結婚式コストは右肩上がり
「親」や「ゲスト」が主役に
大塚:招待客みんなを「おもてなしする」という側面が強くなった。だからアットホーム婚というのは、さらにコストアップにつながったんですね。
伊藤:その通りです。バブルの頃のようにきらびやかではないですが、招待客を大切にしたい、おもてなしにお金をかけたいという人が増えました。当然「みんなが主役」になった瞬間、主役が増える分だけ、いろんな演出が必要になってくるわけです。例えば、自分がきれいなドレスを着るだけじゃなく、料理にもお金をかけたいとか、誕生日のゲストにサプライズでプレゼントを渡したいとか。
さらにここ数年で顕著になってきたのは、「親への感謝」という傾向。今のカップルに共通しているのは、自分の親に対してとても肯定的な考えを持っていることなんです。その感覚をベースとして、「親に対する感謝」が新しい家族を作る原動力にもなっている。『ゼクシィ』では結婚式を挙げる理由を長年調査しているのですが、2011年のデータで1位は「親・親族に感謝の気持ちを伝えるため」、2位は「親・親族に喜んでもらうため」となっています。
大塚:親から言われて仕方なく、ではなくて、自分たちの方から親を喜ばせるために結婚式を挙げるんですか。なるほど親との距離感が近く、仲良し親子が増えてきた世代であることを象徴していますね。
伊藤:それに伴い、これまでは結婚式って親はだいたい末席で目立たなかったものですが、むしろ積極的に招待客の前に出るというのが今は外せない演出になっているんですよ。
大塚:私事で恐縮ですが、僕の姪が近々結婚するんです。そういえば、その親も自分が結婚式で楽器を演奏するって言っていましたよ。「親が演奏するの?!」って私なんか驚いて聞いちゃいましたけど(笑)。
伊藤:まさに「親も主役」になっているということの現れですね。
大塚:あと結婚式ってこれまで女性主体で、男性はそれに従うという構図が一般的だったと思いますが、男性自体の意識も近年変わってきたんでしょうか?
伊藤:ええ、そうですね。ここ数年のトレンドには「新郎の変化」も含まれます。最初に気づいたのは、結婚式で号泣する新郎が非常に増えたな、ということ。
大塚:え、それはどうなんだろう?(笑)
伊藤:『ゼクシィ』読者も今では30%が男性なんです。私たちはこうして変化しつつある新郎を、「イケてる婿」と書いて「イケ婿」と呼んでいるのですが、要は結婚式の準備に積極的で、周囲への感謝を伝えたいという思いが強い方たち。
今年の調査では、結婚式当日、ほぼ2人に1人がウェルカムスピーチを行い、5人に1人がゲストや新婦に向けてサプライズを仕込んでいるという結果が出ています。中には花嫁のベールやケーキを手作りするイケ婿もいるほど。
しかも、男性が最後に号泣することを男らしくない、という声はあまり聞こえてきません。とてもいい結婚式だったと、招待客も彼らの涙に肯定的であるようです。新郎への「結婚式準備に積極的な理由」の調査からは、「目立ちたい・楽しみたい」よりも、「感謝を伝えたい」という気持ちが大きいことが分かります。そんな心持ちも招待客に伝わっているのかもしれません。
大塚:いやあ、時代は変わりましたねぇ(笑)。
伊藤:こうした変化を内包しながら、具体的には08、09年あたりから「アットホーム婚」の次の展開が見え始め、その動きは2010年代に入るとかなり顕著になってきています。どうも結婚式が、これまでのゴールを祝うものから、「結婚した次の日からの生活を見据えたもの」に少しずつ変わり始めたように思うのです。つまり、アットホームだけでは足りない、そこにもっと「心」とか「スタート」とか「これまでの感謝」のような視点が必要とされ始めた。
大塚:ある意味、それは結婚式において大きな変化ですよね。長年の常識だった「結婚式はゴール」という考え方から、「スタート」に切り替わったのですから。きっかけはなんだったんだろう?08年に起こったリーマン・ショックとかも影響があるでしょうか?
伊藤:リーマン・ショックがあったから、というほどのはっきりとした影響は若い世代の間に出なかったように思います。ただ、過去をみても、およそ7~8年でトレンドは定着し、次の兆候が出始めるんですね。
「アットホーム婚」はその前の派手婚・地味婚へのアンチテーゼの意味合いが強く、人気となった訳ですが、それも当たり前になった。そこにもっと本質的な意味合いを結婚式に込めたい、という志向が高まってきた。
大塚:つまり結婚式をゴールではなくスタートとして捉えるのは、本質的なものへの変化なんですね。
伊藤:『ゼクシィ』では、最近のこの傾向をアットホーム婚と比較して「アットハート婚」と呼んでいます。