法律的にはどうなのか?

 法律上、一次相続(父)の際に交わされた約束は、二次相続(母)の際に効力をまったく発揮しません。極悪非道なA男の振る舞いですが、法律的にはA男の意見が通ってしまうのです。

 仮に、父の遺産が1億円、母の遺産が1億円、夫婦合計2億円の遺産があったとします。

「父の遺産(1億円)をすべてA男が相続したなら、母の遺産(1億円)はすべてB美が相続するのが平等」

 法律上は、このように考えません。相続は、あくまで亡くなった人、ひとりひとりの遺産額を基準として考えます。夫婦の遺産を合計した金額をベースにするわけではないのです。

 このような事態を避けるためにも、一次相続の際は「次の相続でちゃんと調整するから」という約束を安易に交わすのはやめましょう。きちんと履行される保証はなく、「そんな約束していない」と言われてしまえばそれまでです。

 ではどうするべきか。この形を実現させたいのであれば、一次相続の際に「①母の遺言書の作成と②A男の遺留分の放棄」までを約束させる必要があります。

 母が「私の財産はすべてB美に相続させる」という内容の遺言書を作成すれば、B美が母の遺産をすべて相続する権利を持つことになります。