コロナ禍の影響で、企業の人員削減にまつわる報道が増えている。先行きが見えない中、「私は、今の仕事を続けていて大丈夫なのだろうか?」と悩む人も少なくない。
わけるとつなぐ -これ以上シンプルにできない「論理思考」の講義-』という本は、「正解のない問いに自分自身で答えを出す」ための本だ。著者の深沢真太郎氏は、転職においても「わけるとつなぐ」が大いに役立つと言う。本記事では、深沢氏自身の転職経験を交えて、自分自身が納得できる転職先の見つけ方を具体的にお伝えする。(構成:編集部/今野良介)

「私は、今の仕事を続けていて大丈夫なのだろうか?」

 いま、そう考えるビジネスパーソンは少なくないでしょう。コロナ禍は世界を変え、私たちの生活はもちろん、仕事の環境も急激な変化に対応していくことが求められるようになりました。危機感を持ち、未来を想像し、「働く人」としての自分はこれからどうすべきかを考える。当然のことです。

 しかし、転職。

 難しいですよね。正解がないし、勇気も必要です。日々の忙しさに流され、とりあえず闇雲に転職サイトに登録してはいるものの、どうしても後回しにしてしまう、という人も多いのではないでしょうか。

 私はそんな人に、「ちゃんと考えて答えを出しましょう」と提案します。自分の人生を変えられるのは、自分だけです。とはいえ、私がただ「考えましょう!」と声高に叫んでも意味がありません。具体的にどうすれば答えが出せるのか。この記事では、そのヒントをお伝えしたいと思っています。

「ちゃんと考える=わけるとつなぐ」

 私は「ビジネス数学教育家」として、ビジネスパーソンの思考力を高めるサポートをしています。その活動の中で、「考えて答えを出す」という行為に必要な要素はたった2つだということを発見しました。それは「わける」と「つなぐ」です。

「わける」とは、分解や分類の概念です。いずれにも「分」という字が使われます。

 一方の「つなぐ」とは矢印(→)でつなげることを意味します。

 あまりに抽象的な表現なので、具体例を3つ挙げましょう。

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【SWOT分析】
4つの要素にわけて戦略を考えるフレームワーク

【ロジックツリー】
細かく分解していくことで物事の本質や真の原因を特定するツール

【三段論法】
演繹的思考の代表。例えば「読書量を増やした知識が増えた雑談が苦にならなくなった→人間関係が少し改善された」

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「論理思考」や「問題解決」などのテーマで語られる、いわゆる「フレームワーク」は、一見とても難しそうに見えるかもしれませんが、その本質はとてもシンプルで、すべて「わける」と「つなぐ」をしているに過ぎないのです。

 私はこの仕事を通じ、いくらSWOT分析やロジックツリーなどのフレームワークを覚えても、実際にビジネスシーンでは使えない人が多いことを知りました。彼らはなぜフレームワークを使えないのか。名称を覚えただけで、行為を身体が覚えていないからです。

「わける」と「つなぐ」さえ身体が覚えれば、ビジネスシーンはもちろん、転職などの人生の難問を前にしたときも、逃げることなくちゃんと考えて答えを出せる。私はそう考えています。

「転職したい理由」をわけて、つなぐ。

 実際に「転職」を題材にした話をします。

コロナ禍の転職先は「わける」と「つなぐ」で考えよそりゃ悩む。揺らぐ。でも、その前にやることがある。 Photo: Adobe Stock

 もし、私の前に転職したいと思っているビジネスパーソンがいたら、私はその人にまずこの問いを投げかけるでしょう。

「そもそも、なぜ転職したいの?」

 様々な回答が想定されます。

・いまの会社を退職するから。
・今の仕事がつまらないから。
・給料が安いから。
・今の会社では将来が不安だから。

 ここでは、例として最後の「今の会社では将来が不安だから」をピックアップしましょう。

「今の会社では将来が不安だから」は、転職したいと思う本質的な理由になりうるでしょうか。私はそうは思いません。これは表面的な答えであり、自分自身もこの回答に納得できないと思うのです。

 しかし「つなぐ」をするだけで、真の理由が浮かび上がってくるはずです。

 そこで私は、このような図を描き、その人物に空欄を埋めるように考えさせるでしょう。

「        」
→(だから)→「今の会社では将来が不安」

 

 矢印(→)は、ここでは「因果関係」を表します。こう導くことで、人は少しだけ深く考えることができます。たとえば、

「コロナ禍で業績が急降下した」
→(だから)→「今の会社では将来が不安」

 空欄が埋められたら、さらに空欄を増やすことで、さらに深く考えることができます。

 

「普段からITへの投資を怠ってきた」
→(だから)→「リモートワークへの対応が極めて遅い」
→(だから)→「コロナ禍で業績が急降下した」
→(だから)→「今の会社では将来が不安」

 普段からITへの投資を怠ってきた会社ということは、先見性や余裕がない会社。この厳しい時代にそれでは未来の成長など到底見込めない。だから転職したい。これが本質的な理由になるかもしれません。

 これがいわゆる、ちゃんと考えている人の転職理由であり、単に「今の会社では将来が不安だから」は、ちゃんと考えていない人の転職理由です。

 この例におけるその違いはたった1つ、「つなぐ」という行為をしたか否か、ただそれだけです。

「自分は、何でできているか?」

 転職することを考えるとき、「自己分析」をすることもあるでしょう。自分の強みは何か。弱点は何か。活かせる能力は何か。学生時代の就職活動で経験した方も多いでしょう。

 とはいえ、まだ社会人として働いたことのない学生時代の自己分析と、転職における自己分析は少し毛色が違います。後者は、分析すべき「働いた経験」が、すでにあるからです。自分自身をより明確に分析できるはずだから、です。

 私が提案したいのは、まず、あなた自身を細かく分けることです。分析の本質は「わける」です。その際、ぜひ次の問いかけを自分自身にしてみてください。

「自分は、何でできているか?」

 頭と胴体と手足と… というのも正しいですが、もっと上位の概念として、あなたは何でできていますか?

「外見と内面」

 たとえば、そんな分類をしたとします。ここでまた、自分自身に問いかけるのです。

 「自分の内面は何でできているか?」

・「優しさ」
・「厳しさ」

 ではあなたの「優しさ」は何でできていますか?

・「弱者と同じ立場に立って想像力を働かせること」
・「かつて恩師からもらった教え」

 ではあなたの「厳しさ」とは何でできていますか?

・「誠実でないことへの憤り」
・「自身を律するべきだという考え」

 思考がどんどん細かく、具体的になっていきます。

「何でできているか?」という問いはつまり、それを構成する要素を探ることを促します。細かくわけていくことで、最初はぼんやりしていた概念が、具体的な概念の組み合わせでできていることを明らかにできます。

 明らかになるから、自分の強みや弱点もわかる。これが、私の考える自己分析です。

 この例においては、もしかしたらこの人物は「弱者と同じ立場に立って想像力を働かせること」という考え方を大切にしている会社へ転職することがよいかもしれません。正義感の強い人物のようですから、自分の正義感と一致している経営理念を掲げる会社を選ぶことで、難しい仕事でも頑張ってやり遂げることができるかもしれません。

どの会社を選ぶべきか?

 さて、その先に、相性の良さそうな転職先が3つ見つかったとします。ここで再び分析が必要になります。このときもぜひ「わける」を使いたいところです。

 先ほどと同じように問いを自分自身に投げかけます。

「自分の選択理由は、何でできているか?」

 その理由を構成する要素は何かを明らかにするのです。

 例えば、

・普段からITへの投資を積極的に行う会社か?(評価軸X)
・社会的弱者を救うことを使命としている会社か?(評価軸Y)
・経営トップの人柄が、自分がこうなりたいと思える人物像と一致するか?(評価軸Z)

 この3要素に分解できると結論づけるなら、この3つの総合評価で選択することになります。

 それぞれを3段階で、必ず差をつけるようにして評価し、総合評価で最上位のものが合理的な解になります。仮に次のような評価であれば、この人物は、B社を選択するのがもっとも失敗しない転職になる可能性が高い、と結論づけられるでしょう。

コロナ禍の転職先は「わける」と「つなぐ」で考えよ必ず差をつけるように評価する。

 強調したいのは、ちゃんと考えることができない人はA社、B社、C社という3つの候補を前にして「うーん、難しいなぁ」と悩むことしかできないということ。これがいちばんもったいないことです。

 一方、ちゃんと考えることができる人は、このように論理的に数値も使いながら答えを出します。何となく悩んで出した答えよりも、自分自身の納得感が段違いに増すはずです。

 その違いはたったひとつ、「わける」という行為をしたか否か。それだけです。

結論までの道を矢印(→)で描く

 この例でお伝えしたこと、そして結論までの筋道を整理すると、こうなります。

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「普段からITへの投資を怠ってきた」
→(だから)→「リモートワークへの対応が極めて遅い」
→(だから)→「コロナ禍で業績が急降下した」
→(だから)→「今の会社では将来が不安」
→(だから)→「転職したいと思っている」


(さらに)

転職先の条件は3要素の総合評価である
「普段からITへの投資を積極的に行う会社」(X)
「社会的弱者を救うことを使命としている会社」(Y)
「経営トップの人柄が、自分がこうなりたいと思える人物像と一致すること」(Z)


(一方)

候補は3社ある。(A社・B社・C社)


(以上より)

評価の結果、B社への転職が妥当と結論づける

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 一連の行為が矢印(→)でつなげることで完成されています。つまり転職を検討し始めた段階から、転職先を決めた結論までがすべて矢印(→)でつながっているのです。数学の証明問題を解いていくように。

 どんな難問も必ず「わける」と「つなぐ」だけで答えが出せる。私の主張を信じていただけるなら、ぜひあなたもチャレンジしてみてください。

私の起業も「わけるとつなぐ」で決めた

 最後に私自身の「転職」の経験についてお話しします。

 会社員を卒業し、「ビジネス数学教育家」として活動を始めて今年で10年目になります。つまり、およそ10年前に、私は会社員を辞めて独立起業することを決めました。いま振り返れば、私もやはり「わけるとつなぐ」だけで決めていました。

 その過程は、このようなものでした。

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「管理職の仕事が楽しくなかった」
→(だから)「人をマネジメントする仕事よりも職人的な仕事が向いていると感じるようになった」
→(だから)「組織の中で会社員として生きることのの限界を感じた」
→(だから)「独立したいと考えた」


(さらに)

起業テーマは以下の条件をすべて満たすものである
「自分の得意分野であるデータ・数学的な仕事術が活用できる」(X)
「教えることが好きなので、教育分野がいい」(Y)
「マネジメントではなく、あくまで職人的な仕事のスタイル」(Z)


(一方)

ビジネス系の人材育成コンサルタントや研修講師は数多いるが、このテーマを「専門」とする突出したプレイヤーが日本にはひとりもいなかった


(ゆえに)

(ビジネスパーソン向け)×(数学)×(教育者)
=ビジネス数学教育家

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 起業も「転職」です。おかげさまで、今は楽しく仕事ができています。私は数学を信じて生きてきた人間だから、数学的に導いたこの解を信じると決めて、勇気を出して勝負しました。今、10年前のこの意思決定は間違っていなかったと思います。

「私は今のままでいいのだろうか」

 私はそんな人に、「ちゃんと考えて答えを出しましょう」と提案します。自分の人生を変えられるのは、自分だけです。その真意は私の実体験にあります。

 もし私の主張を信じていただけるなら、転職を考えるあなたも、チャレンジしてみてください。

深沢真太郎(ふかさわ・しんたろう)
1975年神奈川県生まれ。ビジネス数学教育家。BMコンサルティング株式会社代表取締役。一般社団法人日本ビジネス数学協会代表理事。数学を用いた論理的思考力をビジネスに活かす「ビジネス数学教育」の第一人者。日本大学大学院総合基礎科学研究科修了、理学修士(数学)。
「ビジネス数学検定」国内初の「1級AAA」(最高ランク)認定者。SMBCコンサルティング株式会社などの大手企業や、早稲田大学、産業能率大学などの教育機関の研修・講座に登壇するほか、プロ野球球団やトップアスリートの教育研修も手がける。これまで延べ1万人以上を指導。テレビ番組の監修やラジオ番組のニュースコメンテーターなども務める。
著書に『そもそも「論理的に考える」って何から始めればいいの?』(日本実業出版社)、『数学的に考える力をつける本』(三笠書房)、『「仕事」に使える数学』(ダイヤモンド社)など多数。