2018年2月の発売以降“小論文のバイブル”としてジワジワ広がり、小論文対策本として異例の7万部超を記録している『落とされない小論文』。試験会場に足を運べば多くの受験者が手にしていて、今や受験の必読書とも言われる。
いったいなぜ、この対策本だけが、こんなにも支持を集めるのか?
そこには多くの受験生がハマる“落とし穴”があった。
元NHKアナウンサーで、現在は「小論文指導のプロ」という異色の経歴を持つ今道琢也さんに、「なぜか誰も教えてくれない小論文対策のポイント」を訊いた。(取材・構成/イイダテツヤ)
「多くの受験生は、こんな失敗をしていますよ」という本
──今道さんは「小論文対策のプロ」として、すでに多くの受験生の指導をされていますよね。なぜ本を書いて、ノウハウを世に広めようと思ったんでしょうか?
今道琢也(以下、今道):世の中には、すでにいろんな小論文対策の本が出ていますけど、「私が多くの受験生を指導しているなかで感じていることと違うな」と思ったのが出発点です。「大事なことが書かれていない」というか、「そうではないところに重要なポイントがあるのに……」というのが正直な思いでした。
たとえば、多くの本では「句読点の打ち方」とか「原稿用紙の使い方」とか「起承転結のつけ方」などが書いてあります。もちろんそれらも大事ですし、できるに越したことはないんですけど、もっと大事なことがあるんじゃないか、と。
──「もっと大事なこと」とは?
今道:『落とされない小論文』では「やりがちな減点要因ランキング」に則って、受験生が陥りがちな問題を、順を追って解説しています。つまり「小論文を書く上で、ここが大事ですよ」というのではなく、「多くの受験生は、こんな失敗をしていますよ」という構成になっています。
そのワーストランキングの1位、つまりこの本の最初に出てくるのが「問題文の指示に正しく答えていない」です。
──問題文の指示に答えていない? それがワーストランキングの1位なんですか?
今道:そうです。ほとんどの人が、まずそこでつまずいています。「問題文の指示に正しく答えていない」という人はもちろん、そもそも「問題文をちゃんと読んでいない」ケースが非常に多い。そういうところをきちんと指摘して、直していかないと、小論文の点数が上がるはずがないんです。
──その「問題文をちゃんと読んでない人」は、どんな小論文を書いてしまうんですか?
今道:問題文をきちんと読まないから、「何を書かなければいけないか」を理解しないまま書き始めることになります。
『落とされない小論文』に載せている例題で言うと、たとえば教員採用試験では、こんな問題がよく出されます。
「あなたはなぜ本県の教員を志望しているのか、その理由を述べよ。」
この問いに対して、多くの人が「教員を志望している理由」をそのまま書いてしまうんです。「私は小さい頃、○○のような経験があって、それで教員を目指しました」みたいに。
でも、問題文をちゃんと読めば「本県の」と書いてありますよね。
つまり、問われているのは「ただ、教員を志望している理由」ではなく、「本県の、教員を目指している理由」です。出題者はそれこそが知りたいわけです。
もちろん重なる部分もあるでしょうけど、この県とは関係ない「教員を目指す理由」をいかに上手に述べたところで、出題者の心には響きません。もはや「てにをは」がどうとか、「起承転結」や「序論・本論・結論」などという技術的なこと以前の問題です。
1975年大分県生まれ。インターネット上の小論文指導塾「ウェブ小論文塾」代表。京都大学文学部国語学国文学科卒。元NHKアナウンサー。高校時代、独学で小論文の書き方をマスターし、現役時に大阪大学文学部、翌年の再受験で京都大学文学部、慶應義塾大学文学部、就職試験ではNHKの試験を突破(すべて論文試験あり)。NHK在職中に編成局長特賞、放送局長賞などを受賞。2014年に独立し「ウェブ小論文塾」を開校。約2000枚の答案を独自分析し「全試験共通の陥りやすいミス」を発見。
「落とされない小論文の書き方」を確立する。国家公務員試験、地方公務員試験、教員試験、大学・大学院入試、企業内の昇進試験、病院採用試験、マスコミ採用試験にいたるまで、あらゆる分野の小論文を指導し、毎年多数の合格者を輩出。同塾では、過去問題指導に加え、全国の自治体・大学の独自予想問題を作成して指導し、的中事例も多数。「答案提出翌日から3日以内」のスピード返却に加え、丁寧で的確な指導が圧倒的な支持を得ている。『落とされない小論文』が初の著書。
──小論文というと、つい「何を書こうか」「どう書こうか」に意識が向きがちですが、そもそも「何を問われているか」を、まずはきちんと読み取らなければいけないと。
今道:完全にそうです。「問題文の指示に正しく答えていない」というのは、陸上競技で言えば、まったく違う方向へ走り出しているようなものです。ゴールは前方にあるのに、右へ走り出したら、どんなに早く走ってもゴールに辿り着きません。当たり前のことなんですけど、これができていない人が本当に多いです。
そして私が知る限り、そういうところをしっかりと突いている小論文の対策本は、ほとんど見たことがなかったんですね。触れているとしても、ほんのちょっとだけ。でも、私が指導してきて強く感じるのは、まずはそこが一番のポイントですし、多くの人が失敗しているという点では、もっとも重要な部分だと思います。
──なるほど。この本が受験生に受け入れられる理由の1つは、そこにあるんですね。