産油国の減産維持にワクチン開発の進展や経済正常化への期待が加わり、足元の原油相場は上昇基調にある。一方、10年先物は安定して推移している。それは、将来において受給が引き締まる状況にないことを示唆する。その背景にあるのが、先安観をもたらすバイデン政権のエネルギー政策である。(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員 芥田知至)
ワクチン開発進展と減産維持で
一時2年半ぶりの高値付ける
原油相場は堅調に推移している。3月8日には一時、欧州北海産原油のブレントが1バレル当たり71.38ドルと2020年1月以来、米国産原油のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)が同67.98ドルと18年10月以来2年半ぶりの高値を付けた。
昨秋ごろまでの状況は、株式や銅など工業原材料の相場が新型コロナウイルス感染拡大からの経済正常化を先取りする形で上昇してきたのに対して、原油相場は出遅れ感が濃かった。欧米で新型コロナの感染再拡大が懸念された11月初めには5カ月ぶりの安値を付けていた。
しかし、その後の原油相場は上昇ペースを速め、足元ではコロナ前の相場水準を上回り、さらに高値をうかがう動きとなっている。
まず、ワクチン開発の進展があった。11月は、各社からワクチン開発進展の報が相次ぎ、経済正常化への期待から株式など他のリスク資産とともに原油相場も上昇した。
さらに産油国による原油生産方針の決定も支援材料だった。12月3日にOPEC(石油輸出国機構)に非加盟産油国を加えた「OPECプラス」の閣僚会合において協調減産の小幅縮小(=小幅増産)で合意した。
当初、日量770万バレル規模の協調減産を1月から同580万バレルへと縮小する予定だったが、需給緩和を懸念して、同720万バレルへの小幅縮小にとどめた。他のリスク資産に比べて出遅れていた原油に対して、見直し買いが強まることになった。
その後も原油固有の相場上昇材料が相次いだ。
まず、1月4日からのOPECプラスの閣僚会合が注目された。2月以降の原油生産方針を協議したが、結論を持ち越す事態となった。
既定路線は、日量50万バレル増産して減産幅を同670万バレルとすることだったが、サウジアラビアなどが石油需要低迷への懸念を強めており、減産幅を同720万バレルに据え置く案が有力になっていた。しかし、ロシアなどが同50万バレルの増産を主張し、当日の会合では折り合いがつかなかった。
1月5日に再開された会合では、ロシアが2月と3月に日量6.5万バレルずつ減産縮小、カザフスタンが同1万バレルずつ減産縮小としたが、他国の減産幅は現状維持とすることが決定された。
さらに、別途サウジが2~3月に自主的に日量100万バレルの減産を実施すると表明した。事前には減産縮小(=増産)が見込まれていたところに、実質的な減産幅の拡大がなされたため、需給引き締まり観測から原油高につながった。