暗闘 企業買収の新常識#3
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その買収価格は安過ぎる!――。介護大手のニチイ学館が昨年8月に実施したMBO(経営陣が参加する買収)を巡り、少数株主だった香港の投資ファンドが公正価格の決定を求めて東京地方裁判所に申し立てを行った。すでにMBOは成立しているが、訴訟の行方次第では日本におけるMBOの「不都合な真実」が暴露されるパンドラの箱となるかもしれない。特集『暗闘 企業買収の新常識』(全8回)の#3は、その全貌を解き明かす。(ダイヤモンド編集部 重石岳史)

ニチイの元株主が東京地裁に申し立て
MBOの公正価格巡り法廷闘争へ

 今年1月、東京地方裁判所に申し立てを行ったのは、ニチイ学館の株主だった香港の投資会社、リム・アドバイザーズだ。リムはダイヤモンド編集部の取材に申し立ての事実は認めたものの、「詳細を申し上げることはできない」とコメントした。

 だが、事情に詳しい関係者は「リムは、ニチイの創業一族と米投資ファンドのベインキャピタルが実施したMBO(経営陣が参加する買収)に最後まで反発し、保有株式の売却に応じなかった。その時点で法廷闘争に発展するのは既定路線だった」と話す。

 ニチイのMBOを巡っては2020年5月に公表後、株式公開買い付け(TOB)価格を当初の1株1500円から1株1670円に引き上げた末に同年8月に成立。10月の臨時株主総会で上場廃止が決まった。

 全ての始まりは19年9月、ニチイの創業者で会長(当時)の寺田明彦氏が83歳で急逝したことにある。

 莫大な相続税を払うため、約200億円相当の株式を保有していた寺田一族らはいったん株式を売却した上で現金化し、残った資金を受け皿会社に出資。創業家は非上場化したニチイの大株主にとどまり、経営を続けるシナリオを描いた。

 そう珍しくない相続税対策にも見えるが、このMBOスキームに参加するプレーヤーの顔触れには目を見張るものがある。

 まず、受け皿会社に計約990億円を融資するのが、三菱UFJ、三井住友、みずほの3メガバンク、野村キャピタル・インベストメントだ。さらに公開買い付けの代理人に野村證券、ファイナンシャルアドバイザーにデロイトトーマツ・ファイナンシャルアドバイザリーが名を連ねる。

 まさに日本の金融界を代表するトップ企業が一堂に会した“オールジャパン”体制だ。もちろん、このスキームに参加できない金融機関も数多い。そんな“代表漏れ”の面々からは、「うまみしかないスキーム。彼らは利益共同体だ」という怨嗟の声も聞こえる。