暗闘 企業買収の新常識#7
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香港の投資ファンドが公正価格の決定を求めて裁判所に申し立てを行ったことで「事件」と化したニチイ学館のMBO(経営陣が参加する買収)。特集『暗闘 企業買収の新常識』(全8回)の#7は、国のMBO指針作成に携わった田中亘・東京大学社会科学研究所教授に、数々の「おかしな点」について見解を聞いた。(ダイヤモンド編集部 重石岳史)

ニチイ学館MBOの手続きは公正?
焦点は「他の対抗提案の取り扱い」

――2019年に策定された「公正なM&Aの在り方に関する指針」は「日本のM&Aを健全な形で発展させていく」とうたっていますが、この指針の意義についてどうお考えですか。

 指針の趣旨は、MBO(経営陣が参加する買収)のように利益相反があるM&Aを公正な手続きで進めようというものです。

 その背景には外部投資家、いわゆるアウトサイダーの発言力が強まっていることがあるのでしょう。伝統的な日本の企業統治は、従業員や取引先、銀行などのインサイダーが中心で、ある時期までそれは機能してきたのでしょうが、2000年代以降はアウトサイダーによる企業統治が中心になっています。

 そうしたアウトサイダーにもフェアプライス(公正な価格)を提供する手続きを整えるということが、指針策定の契機になっていると思います。

――しかし指針に強制力はありません。本当に「公正な手続き」が担保されているのでしょうか。